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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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むかしむかし、ある森に

むかしむかし、ある森に

昔々、ある森に化け物がいました。


化け物は、手に触れるものは、みんな飲み込んでしまいました。




ある日、化け物は、とても柔らかいものに触れました。


化け物は柔らかいものをぺろりと飲み込みました。




化け物は柔らかいものがあまりにおいしくて、びっくりしました。




化け物は、それから柔らかいものが、食べたくて


食べたくて、食べたくて、食べたくて。


どんなものが手に触れても、食べませんでした。




化け物は、とうとう、柔らかいものを探しに、森から出て行きました。


歩いて歩いて歩いて


化け物は、ひろい砂漠に出ました。




砂漠で、はじめに化け物の手に触れたのは、


とても、かたいものでした。


かたいものは、化け物の手をチクチクさしました。




化け物は聞きました。


柔らかいものを知らないか?




かたいものは、俺を、はなしてくれたら、教えてやろう。といいました。


化け物は、かたいものをはなしました。


かたいものは逃げ出すと、ずいんぶん、とおくで叫びました。




砂漠にやわらかいものはない。海へ行くがいい。




化け物は、海へむかいました。


歩いて、歩いて、歩いて


化け物は、ふかい海にでました。




海で、はじめに化け物の手に触れたのは、


ぬるぬるしたものでした。


ぬるぬるしたものは、化け物の手をしめつけました。




化け物は聞きました。


柔らかいものをしらないか?




ぬるぬるしたものは、俺をはなしてくれたら、教えてやろう。といいました。


化け物は、ぬるぬるしたものを、はなしました。


ぬるぬるしたものは逃げ出すと、ずいんぶんとおくで叫びました。




海ににやわらかいものはない。空へ行くがいい。






化け物は、空へむかいました。


歩いて、歩いて、歩いて


化け物は、高い山のてっぺんにでました。




空で、はじめに化け物の手に触れたのは、


ふわふわしたものでした。




ふわふわしたものは、ばけものの手をつっつきました。


化け物はふわふわしたものに聞きました。




柔らかいものをしらないか。


ふわふわしたものは、俺をはなしてくれたら教えよう。といいました。


化け物がはなすと、ふわふわしたものは化け物に




ついてこい。といいました。




ふわふわしたものは、ふわふわと飛んで


化け物がすんでいた森へ飛んできました。




とても澄んだ湖の上にくると、ふわふわしたものは言いました。


その湖の中に、やわらかいものがいる。のぞいてみるがいい。


ふわふわしたものは、とおくへ飛んでいきました。




化け物は、湖をのぞいてみました。


目をこらしてみましたが、湖には何も見えませんでした。


夜が来て、朝が来て、昼になって、また夜が来て。


化け物はずっと、湖をのぞきつづけました。




ですが、湖には何も見えませんでした。




ある日、ふわふわしたものが、どこからか飛んできました。


そうして、化け物のとなりに、しずかにすわりました。


ふわふわしたものは言いました。


柔らかいものは見つかったか?


化け物は言いました。


ずっと湖を見ているが、なにも見えない。




ふわふわしたものは、湖にうつったふわふわしたものの姿をさしていいました。


姿のあるものは、湖にうつるものなのだ。


俺は砂漠も、海も、空も、森も。


あらゆるところを見てきたが、この世に柔らかいものは


お前のほかには、いなかったよ。




化け物は、言いました。


では、俺は。


手に触れた、俺自身を食べてしまったのか。




そうして湖を見つめると、




やはり、そこには、何もうつっていませんでした。




ふわふわしたものは、しばらく湖を見つめると


ふわりと飛んでいきました。




あとには何もありませんでした。

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