すきすき きすきす
すきすき きすきす
「ママあ、お茄子のおつけもの買ってえ」
「またあ? ほんとに水漬けが好きねえ」
すみれの好みは渋い。茄子の漬物を筆頭に、鯛のあら炊き、玄米おにぎり、ちょろぎにモロキュー、硬焼きせんべい。
趣味は緑茶と漬けものをお供に相撲観戦すること。保育園の友達と最初は話が合わなかったが、最近は周りのみんなが触発されて渋めの食べ物が流行りだした。おやつの時間にクッキーが出ると
「ようかんがよかったなあ」
「ぼくは酢こんぶが食べたかった」
などと言って保育士を困らせる。すみれは罪深い女なのだ。
「すみれちゃん、ぼくと遊んで」
すみれが砂場で砂山を作っていると清貴がやってきて声をかけた。
「いいよ。いっしょに砂のお城つくろう」
清貴は張り切って砂山を高く高く積み上げていく。すみれは段々になるように平地を作り、そこを繋げるように道を作っていく。
「すみれちゃん、これ、どこのお城?」
「春日山城!」
清貴は驚いて目を丸くする。
「すみれちゃんはやっぱりかっこいいなあ」
きらきらした目ですみれを見つめる清貴に気付きもせず、すみれは一心不乱に春日山城を形作っていく。
「ここが馬場、ここが搦め手門、ここが三郎屋敷!」
すみれの手を清貴が止める。
「すみれちゃん、だいすき。ちゅーしていい?」
「だめ」
清貴はショックを隠せず肩を落としたが果敢にもう一度切り込む。
「どうして? ぼくのこときらい?」
「すきだよ」
「なんでちゅーはだめなの?」
「ちゅーなんてみだれた日本語はだめ。ちゃんと『口吸い』って言って」
清貴の顔に薔薇色が挿す。そっとすみれの顔に顔を近づける。すみれは目をつぶり黙って待っている。清貴は少し震える唇ですみれの頬に触れた。
「だめ!」
目を開き清貴をにらむすみれに気圧され、清貴は砂場に尻餅をついた。
「口吸いなんだから、ちゃんと口にして!」
いきなり上がった難易度に清貴はたじろいだ。顔が幾分青白くなる。
「ちゃんと口にするの!」
すみれは清貴の肩をぎゅっと握ると、砂場に押し倒し唇を奪った。保育士があわてて飛んできて二人を引きはがす。清貴の顔は真っ赤に染まっていた。
「すみれちゃん、だめじゃない!」
すみれはきょとんと首をかしげる。
「お砂場でプロレスごっこしたらお砂でお洋服が汚れるでしょう」
すみれは保育士の両手をしっかりと握ると真摯に答えた。
「相撲のだいご味は砂かぶりだからいいの」
すみれの渋い切り返しに清貴は聞き入りますます、すみれに惚れこんだとさ。




