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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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すきすき きすきす

すきすき きすきす

「ママあ、お茄子のおつけもの買ってえ」


「またあ? ほんとに水漬けが好きねえ」


 すみれの好みは渋い。茄子の漬物を筆頭に、鯛のあら炊き、玄米おにぎり、ちょろぎにモロキュー、硬焼きせんべい。

 趣味は緑茶と漬けものをお供に相撲観戦すること。保育園の友達と最初は話が合わなかったが、最近は周りのみんなが触発されて渋めの食べ物が流行りだした。おやつの時間にクッキーが出ると


「ようかんがよかったなあ」


「ぼくは酢こんぶが食べたかった」


 などと言って保育士を困らせる。すみれは罪深い女なのだ。


「すみれちゃん、ぼくと遊んで」


 すみれが砂場で砂山を作っていると清貴がやってきて声をかけた。


「いいよ。いっしょに砂のお城つくろう」


 清貴は張り切って砂山を高く高く積み上げていく。すみれは段々になるように平地を作り、そこを繋げるように道を作っていく。


「すみれちゃん、これ、どこのお城?」


「春日山城!」


 清貴は驚いて目を丸くする。


「すみれちゃんはやっぱりかっこいいなあ」


 きらきらした目ですみれを見つめる清貴に気付きもせず、すみれは一心不乱に春日山城を形作っていく。


「ここが馬場、ここが搦め手門、ここが三郎屋敷!」


 すみれの手を清貴が止める。


「すみれちゃん、だいすき。ちゅーしていい?」


「だめ」


 清貴はショックを隠せず肩を落としたが果敢にもう一度切り込む。


「どうして? ぼくのこときらい?」


「すきだよ」


「なんでちゅーはだめなの?」


「ちゅーなんてみだれた日本語はだめ。ちゃんと『口吸い』って言って」


 清貴の顔に薔薇色が挿す。そっとすみれの顔に顔を近づける。すみれは目をつぶり黙って待っている。清貴は少し震える唇ですみれの頬に触れた。


「だめ!」


 目を開き清貴をにらむすみれに気圧され、清貴は砂場に尻餅をついた。


「口吸いなんだから、ちゃんと口にして!」


 いきなり上がった難易度に清貴はたじろいだ。顔が幾分青白くなる。


「ちゃんと口にするの!」


 すみれは清貴の肩をぎゅっと握ると、砂場に押し倒し唇を奪った。保育士があわてて飛んできて二人を引きはがす。清貴の顔は真っ赤に染まっていた。


「すみれちゃん、だめじゃない!」


 すみれはきょとんと首をかしげる。


「お砂場でプロレスごっこしたらお砂でお洋服が汚れるでしょう」


 すみれは保育士の両手をしっかりと握ると真摯に答えた。


「相撲のだいご味は砂かぶりだからいいの」


 すみれの渋い切り返しに清貴は聞き入りますます、すみれに惚れこんだとさ。

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