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終わらない秋桜
終わらない秋桜
秋が来るとマナミは庭に出て秋桜が咲き始めるのを心待ちにする。
赤トンボが飛び回る中、風を見ながら立っている。
秋雨前線が去ったころ秋桜が咲いた。
マナミは花を摘む。ピンクの、オレンジの、紅の、白の秋桜を摘む。
たくさんの花を抱え部屋にもどる。そうして押し花を作る。
新聞紙とテイッシュで包んで電話帳にはさむ。その上に百科事典を置いたら、あとは待つだけ。マナミはゆっくりお茶を飲む。
壁にかかった秋桜畑の絵は毎年つくる押し花で描き続けた。
あの人と二人で行った秋桜畑。もう十年も前のことだ。けれどあの日のことはこの絵を見れば思い出せる。あの人はもういないけれど、思い出は色褪せることはない。
絵はもうすぐ完成する。来年か、再来年か。
マナミは秋桜を心待ちに歳を重ねる。自分の心も押し花にするかのように。
そうして広々とした秋桜畑を心の中に描いていくのだ。




