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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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踊り明かそう

踊り明かそう

晴香は『マイフェアレディ』のブルーレイのディスクをセットすると、邪魔なテーブルを部屋のすみに追いやる。映画が始まったら、そのシーンまで早送り。何度見たかわからないシーンたちが駆け足で飛んでいく。主人公のオードリー・ヘプバーンの表情がくるくる変わる。


しがない花売り娘だった。

訛りのない言葉を話せば花屋の店員になれると知った。

それを教えてくれた人の元で一からクイーンズイングリッシュの訓練。

滑稽だけれど一生懸命な日々。

そして。



晴香は早送りを止め、通常速度に戻す。画面に合わせて歌い出す。


ベッド! ベッド! ベッドへなんか行ってられない!

頭はスッキリしすぎて枕になんかつけられない。

おやすみ? おやすみ? 寝たりしている場合じゃない。

王冠の宝石を全部もらったってダメ!


画面の中の主人公と共に踊り出す。


踊り明かそう、踊り明かそう

もっと踊っても足りない。

翼を広げて飛べたの。

なんでもできるって知ったのよ。

なんでこんなにわくわくするの?

なんで心が飛び上がるの?

わかっているのは

彼が私の手をとって踊り始めたら

私は一晩中だって踊れるの!



最初は小学生の頃、ビデオテープで見た。テープが摩りきれるほど繰り返して。

DVDはもちろん買った。歌は全部覚えてしまった。

ブルーレイは美しかった、夢のように。


そして晴香は恋を知った。



彼が私の手をとって踊り始めたら

私は一晩中だって踊れるの!


晴香は高らかに歌い上げると力尽きたようにベッドに倒れこんだ。満面に笑みを浮かべたまま。

その姿は映画の中の主人公と同じ。


そして恋を知った晴香はヘプバーンよりも美しかった。

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