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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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暗い部屋で

暗い部屋で

休日、その娘はカーテンを開けない。電気もつけない。薄暗い部屋の中、布団を被ったまま出てこない。


うつらうつらと夢と現に揺られながら、己の肌に爪を立てる。


肘の内側から手首まで真っ直ぐな線を引く。

手首から肘の内側まで線を引く。

その娘の腕にはもうすでに無数の線が刻まれていて、新たな線が加わると、幾何学模様を描き出す。

丹念に何度も爪で傷をつける。満足いくと反対の腕も同じように。

そして少し微笑む。


その娘はいつでも長袖のシャツを着る。誰もその娘の傷を知らない。その娘の休日の儀式を知らない。

その娘は傷をうっとりと撫でる。そして少し微睡む。


現実はその娘にとって何の意味もない。ただ徒にその娘を傷つけるだけだ。魂を傷つけるだけだ。


だからその娘は傷をつける。体の痛みが魂の軋みをまぎらわせてくれるから。その娘の両腕に引かれた線は、その娘と現実をかろうじて繋ぐ細い糸だ。


その娘はカーテンを開けない。電気もつけない。薄暗い部屋の中、傷だらけの腕を抱き、安らかに眠る。

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