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暗い部屋で
暗い部屋で
休日、その娘はカーテンを開けない。電気もつけない。薄暗い部屋の中、布団を被ったまま出てこない。
うつらうつらと夢と現に揺られながら、己の肌に爪を立てる。
肘の内側から手首まで真っ直ぐな線を引く。
手首から肘の内側まで線を引く。
その娘の腕にはもうすでに無数の線が刻まれていて、新たな線が加わると、幾何学模様を描き出す。
丹念に何度も爪で傷をつける。満足いくと反対の腕も同じように。
そして少し微笑む。
その娘はいつでも長袖のシャツを着る。誰もその娘の傷を知らない。その娘の休日の儀式を知らない。
その娘は傷をうっとりと撫でる。そして少し微睡む。
現実はその娘にとって何の意味もない。ただ徒にその娘を傷つけるだけだ。魂を傷つけるだけだ。
だからその娘は傷をつける。体の痛みが魂の軋みをまぎらわせてくれるから。その娘の両腕に引かれた線は、その娘と現実をかろうじて繋ぐ細い糸だ。
その娘はカーテンを開けない。電気もつけない。薄暗い部屋の中、傷だらけの腕を抱き、安らかに眠る。




