正座して
正座して
金が尽きた。
バイト代が入るまで10日。俺の財布の中身は18円。逆さにふっても塵すら出ない。
戸棚を開けたら、カップ麺が3個でてきた。どんなに漁ってもそれ以上なにも出てこない。いや、なにもというか、ベーキングパウダーはでてきた。俺は菓子など作らないし、ホットケーキも焼かないというのに。
戸棚をパタンと閉め、頭を抱える。
カップ麺3個で10日。一日一個弱。死にはしない。死にはしない。が……。
考えていてもらちが明かない。腹はますます減ってくる。とにもかくにも湯を沸かし、カップ麺をいただくことにする。
湯を注ぎ、蓋をして3分待つ。
カップ麺の前に正座して、俺はしばし考える。考える時間は3分ある。
このカップ麺をもっとも効率よく高カロリーにする方法はないものか。
腕を組む。時計を見る。残り2分。
冷蔵庫はきれいにカラだ。製氷器に氷があるばかり。……うん、水増しという手は悪くない。氷は入れよう。しかし、水腹はすぐに減る。ほかになにかないものか……。砂糖……は買っていない。使わないから。ああ、バイト代が入ったら、砂糖を買おう、使わなくても。
頭をかく。時計を見る。残り1分。……ベーキングパウダー?……いやいやいやいや。ベーキングパウダーは違うぞ。それは粉を膨らますものであって、カップ麺を増量するものでは……。
いや、カップ麺の麺は小麦ではないか。小麦が膨れるのでは? うん。そうかもしれない。いや、きっとそうだ。
時計を見る。残り20秒。よし、ベーキングパウダーだ。
俺は正座を解き立ち上がり、戸棚に向かう。扉を開くと、ポツネンとベーキングパウダーが立っている。俺はベーキングパウダーを手に取り時計を見る。残り10秒。俺はベーキングパウダーを手に大股にテーブルに近づき正座した。
残り5秒。
ベーキングパウダーの箱の封を切る。
残り4秒。
ベーキングパウダーの袋を取り出す。
残り3秒。
ベーキングパウダーの袋を切る。
残り2秒。
ベーキングパウダーの袋の口を大きく開ける。
残り1秒。
ベーキングパウダーを右手にカップ麺の蓋を左手で押さえる。
カウント0。
俺はカップ麺の蓋を開け、ベーキングパウダーを……