その翌日
その翌日
うっすらと目を開けると部屋のなかが黄ばんだように見えた。頭を起こそうとするとガンガンと頭蓋骨が叩かれているような頭痛がする。吐き気もひどい。昨夜、飲み過ぎた。
できるだけ頭を動かさないように起き上がり、ふらふらと台所へ向かう。水道水をグラスに注いでちびちびと舐める。水を飲んだだけで吐き気は増し、水は諦めてベッドに戻った。
いつ帰ったのか記憶にない。昨夜のままのスーツ姿で、真っ白のネクタイだけは外して放り投げていた。
もう思い切ったと思っていたのに。有美が一也と付き合い始めた時に。最初から叶わない思いだと知っていたのに。
昨夜、二人の親友として笑顔で送り出すことが出来たのだろうか。酒に酔って醜態をさらして二人を困らせたりしていないだろうか。
吐き気はかわらず、口からいろいろなものが飛び出しそうだ。嫉妬や、愚痴や、押し殺していた思いとか。そんなものを見たくなくて枕に顔を押し付けて目をつぶった。
次に目覚めたときには幾分調子は戻っていて、吐き気は消えていた。遠くの地鳴りのように頭痛が残っているくらいだった。
ふと携帯に目をやると、メールの着信を知らせるランプが点滅している。手に取ってみると有美からだった。
『昨日はありがとうございました。おかげで素敵な式になりました。ところで、二日酔いは大丈夫?昨夜、かなり酔っていたけど。水分をしっかり採ってね。じゃあ、また』
携帯を握りしめてうつむく。これだから有美にはかなわない。新婚旅行の初日に旦那以外の男の事など放っておいてくれたなら。そんな女だったなら。思いを絶ちきることもできるのに。
携帯をそっと枕元に置いて、台所に置きっぱなしにしていた水で苦い思いを飲み下した。




