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歌のつばさ
歌のつばさ
合唱団の制服は春夏秋冬、半袖だ。
演芸場の中、春と秋は半袖でちょうどいいのだが、問題は夏と冬だった。
空調の風が届かない舞台の上は夏はサバンナのようで、冬はシベリアのようだった。
ある冬の日、舞台が終わって袖にはけた時、同僚の寒がりのケイが自分の腕を抱きながらアリミに話しかけた。
「アリミはいいわね、暖かそうで。どうしたらそんなに寒さに強くなれるの?」
アリミはにこりと笑う。
「歌が私を包んで暖めてくれるの」
どんなに室温に悩まされても歌い出せば、そんなことは忘れてしまう。歌はアリミを苦しみのないところへ羽ばたかせてくれる。
アリミはその翼を羽ばたかせて、遠く旅をする。
遠い山へ、まだ見ぬ海へ、星の世界へ、懐かしい故郷へ。
アリミの歌は皆をも遠くへ運んでいく。




