寒い国から来た刺客
寒い国から来た刺客
「飲もうぜー」
長い夏休みをもて余した夕暮れ、浩二が酒をぶら下げてやってきた時から変だとは思っていた。いつだってヤツは人の酒にタカるのだから。一度たりとも自分で酒代を出したことはないし、家飲みに酒を持参したことなんてなかった。
「ほい」
ヤツが差し出したワインの瓶に半分も酒が入っていなかったから、油断した。
ブフー!
「なんじゃこら!」
一口酒を口に含んだとたん、勢いよく吹き出した。吹いた酒を頭から浴びた浩二は、それでもゲラゲラ笑った。
「なんだよ、これ!しょっぱい!くさい!痛い!」
「そうなんだよ、まずくてどうにもならなくてさ」
「いったい、なんだこの殺人兵器は!」
浩二はニヤニヤしながら答えた。
「サルミアッキっていう世界一不味い飴を買ってさ、あんまりまずくて一箱食べられん。で、酒に浸けてみたわけだ。ほら、不味い薬草入りの酒があるだろ」
「ズブロッカか。あれはウォッカだろ。お前はなんでワインなんかに」
浩二は誇らしげに胸を張る。
「瓶はワインのだが、酒はウォッカをつかったぞ」
「そういうことは先に言え!」
道理で口の中がひりつくと思った。
「先に言ったら面白くないじゃないか」
ニヤニヤする浩二をにらんで、ヤツのグラスになみなみとサルミアッキ酒をついでやる。浩二は嬉しそうにちびちびと酒を舐めながら、嬉しそうに提案した。
「みんなを呼んでさ、飲ませようぜ」
そうしてニヤリと笑う。俺もニヤリとして電話をかけた。一人ずつ、時間差で。
この晩、俺たちは何度も頭からサルミアッキ酒をかぶり、多いに笑い、他のヤツラが持ち込んだ酒を多いに飲んだ。
翌朝、酔いつぶれた俺たちが目覚めてウォッカとサルミアッキでべたべたひりひりする肌に悩まされたのも、夏のいい思い出だ。
「じつはさ」
浩二がニヤニヤしながらポケットから小さな箱を取り出した。
「まだあるんだよ、サルミアッキ」
俺たちはニヤリとわらい、次の子羊をターゲッテイングしていく。
夏休みはまだまだ終わらない。




