つづきはまた明日
つづきはまた明日
「まこ、ここに窓付けようぜ」
大地が砂のお城のてっぺん部分を指さす。まこは困ったように笑う。
「まこね、今日はもう帰らなきゃいけないの。砂のお城はここまでで……」
「じゃあ、また明日つづき作ろうぜ!」
大地のお日さまみたいな笑顔に、まこは困った顔のまま「うん」とうなずいた。
「まこー! あそぼー!」
翌日、大地はまこの家に行ってドアベルを鳴らしたが家のなかはしんとして、まこの返事はない。大地は首をひねりながら一人で公園に行った。ほかの子どもが砂のお城を壊さないように縄跳びの縄でお城をかこい「だいち、まこ」と名前を書いておいた。
次の日も大地は、まこの家に行った。次の日も次の日も。けれどまこはいつもいなかった。
日曜日、いつものようにドアベルを鳴らすと、まこのパパが出てきた。
「おじさん、まこは?」
「大地君、まこは遠くへ行っちゃったんだよ」
「ひとりで?」
「いいや、ママと一緒だよ。もう帰ってこないんだ」
大地はさびしそうなまこのパパに、それ以上なにかを聞くことができなくて、だまって一人で公園へ行った。その日の夜、ざあざあと雨が降った。翌朝、公園に行ってみると砂のお城はなくなっていた。
大地は大きくなって、遠くの街の学校に通うため一人暮らしを始めた。家事もバイトも学校も忙しく、なかなか遊びに行く暇も作れなかった。
ある日、珍しくバイトのシフトがぽっかりと空いた。大地は近所をぶらぶらと散歩してみることにした。自分のアパートのすぐ近くに小さな児童公園があることに初めて気づいた。小さな子供が二人、砂場で砂山を作っていた。大地はふと足を止め、子供の姿に見入った。
「だいちくん?」
呼ばれて振り返ると、見知らぬ女性が立っていた。
「大地くんでしょう?」
大地はその女性をじっと見つめた。化粧をして髪を長く伸ばしきれいになっていたけれど、その目は昔とちっとも変っていなかった。
「……まこ」
おとなになったまこは困ったような顔をして大地の目を見つめた。それは小さな頃、最後に見たまことそっくりだった。
「大地くん、あの時はごめん……」
「まこ」
大地の声に、まこはびくりと体をすくめた。
「明日、砂の城、作ろうぜ。窓も付けて。あの時の続きを」
まこは目を見開き、その目にみるみる涙が溜まって、けれどまこはきらきらした笑顔を浮かべた。
「うん! また明日! 約束ね」
二人は子供の頃のように指切りをして笑いあった。




