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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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末期

末期

太陽が膨張したのだという。

世界中の気温が上がり、北極圏の氷が溶けだし、海面が上昇、多くの都市が海中に沈んだ。


そんな映画みたいな現象は起こらず、今年も夏はフツーに暑い。


いや、フツーとは言えない。去年に比べて格段に暑い。


窓を全開にしても入る風は熱風で、俺は扇風機の前から離れられない。


「あ〜はやく学校始まらないかな〜」


扇風機に向かって喋る声が震える。

学校に行きさえすればクーラーがある。夏こそ学校で過ごすべきだと思う。


「おーい、生きてるかー」


玄関のドアが開いて、梶山が勝手に入ってきた。


「溶けてる〜」


震える声で答えると、梶山は手にしているコンビニの袋を持ち上げた。


「アイス食うか?」


「食うとも」


梶山が袋から取り出したパピコを分けあってちゅうちゅう吸う。梶山がパピコをくわえたまま言う。


「お前、クーラー買ったら?」


「そんな金があったら引っ越すよ」


「だよなあ」


俺の部屋の窓の外には隣のビルのエアコン室外器があって、夏は暑く冬は寒い。とは言っても隣のビルがたっているところに、このアパートが後からできたんだから文句の言いようがない。


パピコはあっという間に溶けて最後はジュースになっていた。


梶山がコンビニの袋から温度計を取りだし、床に置く。二人で黙って見つめていると水銀はどんどん上昇して、ついに三十七度に達した。


「微熱だな」


「俺の体温の方が低いじゃないか」


「ほう」


梶山が手を伸ばし、俺の腕をぺたりと触る。


「たしかに、熱くない、生ぬるい」


「いや、それはお前の体温が高いからだろう」


「平熱は三十六度だが?」


「俺は五・五だ」


梶山は俺の両手をとると頬にくっつけた。


「やめろ、暑い」


「そうだな。あっという間に暖まるな。かえって暑い」


俺たちは暑い部屋で熱くなった脳みそで、それぞれに違うことをぼんやりと考える。扇風機の風は三十七度の空気をかき回し、俺たちはさらに暑くなる。


俺は立ち上がると体温計をとり口にくわえて熱を測った。


「三十六度」


「なんだ、同じ体温じゃないか」


俺は梶山の口に体温計を突っ込む。


「三十六度五分」


「いつもより高いな」


二人してなんとなくため息をつく。俺たちはそのままぼんやりと座っていた。


「じゃあ、帰るわ」


梶山が立ち上がったのは夕暮れ時。外は夕焼けで真っ赤だった。

玄関のドアを開けた梶山が逆行で黒くなる。梶山の方から涼しい風が入ってくる。


夏が、もうすぐ終わる。

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