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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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見知らぬ憂鬱

見知らぬ憂鬱

 ポチと近所を散歩していると、知らないおじさんに話しかけられた。沙羅はポチのリードを握りしめて一歩下がった。ポチはおじさんのそばに寄ろうとぐいぐいリードを引っ張る。けれどチワワのポチの力では、三年生の沙羅を引きずることはできない。

 沙羅はもっと遠くまで下がりたかったが、ポチは一生懸命前に進もうとする。ポチは人見知りせず、すぐに知らない人と友達になろうとする。

 けれど沙羅は「いかのおすし」を守らなければいけない。学校で習ったのだ。


知らない人には「ついていかない」知らない車には「のらない」あぶなかったら「おおきな声で叫ぶ」「すぐにげる」「しらせる」。

 沙羅は大きく息を吸って大声で叫ぶ準備をした。


「おぼえてないかなあ。おじさんはママのお兄さんだよ」


 沙羅は息を止めて叫ぶのをやめ、おじさんの顔をじっと見つめた。たしかにママにはお兄さんがいる。沙羅も小さい時にあった事があるのは覚えている。けれど顔までは覚えていなかった。

 沙羅はもう一歩下がる。おじさんは沙羅に歩み寄ってくる。沙羅は今度こそ大きな声で叫ぼうと息を吸い、おじさんの顔を睨みつけた。


 その時、おじさんの両方の鼻の穴から、鼻毛がみよーんと飛びだしている事に気付いた。


「鼻毛のおじさん!」


 沙羅が叫ぶとおじさんは困ったように笑いながら頭を掻いた。


「ああ、やっぱりおじさんの鼻から鼻毛が出ているかい? 朝顔を洗った時に気付かなかったよ」


 昔、沙羅がママと一緒におじさんにあった時も、おじさんは鼻毛を飛びださせていて沙羅は「鼻毛」「鼻毛」と喜んではしゃいだことを思い出した。


「私知らないおじさんだと思って叫ぶところだった」


 沙羅が言うと、おじさんはますます困った顔になった。


「うーん。思い出してもらえたのはいいけれど、鼻毛に助けられたって言うのは微妙だなあ」


 沙羅はあわてておじさんを慰めた。


「でも、鼻毛っていい言葉だよ!」


「どうして?」


「はしゃいで、ながくて、げんきなの!」


 おじさんは首をひねったけれど、沙羅の笑顔を見て、嬉しそうに笑った。

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