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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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伸びゆく黒髪

伸びゆく黒髪

「お前……、また髪切ったのかよ」


「なによ、悪い?」


俺は軽くため息をついた。妹は男と別れる度に髪を切る。去年までは腰まであった黒髪が、今ではベリーショートだ。それにしても妹はまだ中学二年だというのに、男性遍歴が多すぎやしないだろうか。


「もう少し考えてから付き合ったらどうだ?」


「考えたって、実際付き合ってみないと合うかどうかなんてわかんないじゃん」


「まあ、そうなんだけど」


「あーあ。うちの運命の人はどこにいるんだろ」


妹の短い髪をわしわしと掻き回す。


「やめろ!和真!」


「お前、お兄様を呼び捨てにするな」


「お兄様って言ったって同い年じゃん。血が繋がってないし」


「それでも俺の方が二ヶ月年上なんだからな」


妹は口をつき出して「たった二ヶ月」とつぶやく。


「それにしてももったいないよな、きれいな髪なのにバッサリ切ってさ」


「どうせまた伸びるもん」


「次の男が運命の人じゃなかったらもう五分刈りだろ」


「スキンヘッドもいいかもね〜」


「やだよ、そんなの。髪伸ばせよ」


妹が俺の目をじっと見つめる。


「和真、うちの髪、長くするのに協力してくれる?」


「え?」


俺は髪が長かった時の妹を思い出す。あの時みたいな妹がもどってくる……。

それは素晴らしく魅力的な提案だった。けれど、俺がスキンヘッドの原因になったら、一緒に暮らしていくのも辛いだろう。

俺が返事を返せずにいると妹は目をそらした。


「なんてね、冗談」


リビングから出ていく後ろ姿を見ていて、その背中にふわりとかかる黒髪を想像する。


「なあ」


呼びかけると妹は立ち止まり、けれど振り返らない。


「なによ」


「髪が腰くらいまで伸びるのに、どのくらいかかる?」


「さあ、一年とか二年とかじゃない?」


「伸ばせよ」


妹が振り返る。


「伸ばしていいの?」


「伸ばせよ」


俺は顔が赤くなるのを感じて下を向いた。

妹は笑ったようだ。


「あーあ。こんなことなら、初めから髪切らなきゃよかったな」


顔をあげると、妹は、薫は、髪をもてあそびながら飛びきりの笑顔を浮かべていた。

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