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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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まほろば

まほろば

「その国は緑にあふれて水が豊富にあるんだよ」


「嘘だあ、そんな国があったらみんな押し掛けるに決まってるよ」


語り部の小屋に、今日もティムダはやってきた。他の子供は語り部の白く濁った目を怖がって近づかない。けれどティムダは語り部を恐れなかった。それより語り部の言葉を聞くことに夢中だった。


「その国は誰もが行けるわけじゃない。国に招かれないものには、見ることさえできない」


「蜃気楼みたいなもの?」


蜃気楼は度々見えた。ティムダたちの集落は砂漠の西にあり、夕暮れ時の赤く染まった砂の上にさまざまな幻を描き出した。


「蜃気楼に似ている。けれどもその国は本当に手の届く場所にある」


「すぐ近くにあるなら誰でも行けるだろ。変だよ」


「その国の門を見せよう」


語り部は目の前の水盤に手をかざすと、ティムダを手招いた。ティムダは語り部のそばに寄って水盤をのぞきこんだ。

そこには、緑の蔓が巻き付いた大きな門があった。金属の格子門の向こうには水が湧き出る泉があり、白い肌をした人々が水辺で憩っていた。

ティムダは思わず門に手を伸ばした。

しかしティムダの手は水盤の水を乱し、門を消し去った。


「どうしたらあの国に招かれるの?」


語り部はティムダの頭を撫でた。


「いつも求めることだ。心の奥に描き続けることだ。お前には見えたのだから」


ティムダはうなずく。そして強く決意した。

あの国に行こう。水があふれるあの国に。

いつまでかかっても、思い続けよう。幻の国を。

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