まほろば
まほろば
「その国は緑にあふれて水が豊富にあるんだよ」
「嘘だあ、そんな国があったらみんな押し掛けるに決まってるよ」
語り部の小屋に、今日もティムダはやってきた。他の子供は語り部の白く濁った目を怖がって近づかない。けれどティムダは語り部を恐れなかった。それより語り部の言葉を聞くことに夢中だった。
「その国は誰もが行けるわけじゃない。国に招かれないものには、見ることさえできない」
「蜃気楼みたいなもの?」
蜃気楼は度々見えた。ティムダたちの集落は砂漠の西にあり、夕暮れ時の赤く染まった砂の上にさまざまな幻を描き出した。
「蜃気楼に似ている。けれどもその国は本当に手の届く場所にある」
「すぐ近くにあるなら誰でも行けるだろ。変だよ」
「その国の門を見せよう」
語り部は目の前の水盤に手をかざすと、ティムダを手招いた。ティムダは語り部のそばに寄って水盤をのぞきこんだ。
そこには、緑の蔓が巻き付いた大きな門があった。金属の格子門の向こうには水が湧き出る泉があり、白い肌をした人々が水辺で憩っていた。
ティムダは思わず門に手を伸ばした。
しかしティムダの手は水盤の水を乱し、門を消し去った。
「どうしたらあの国に招かれるの?」
語り部はティムダの頭を撫でた。
「いつも求めることだ。心の奥に描き続けることだ。お前には見えたのだから」
ティムダはうなずく。そして強く決意した。
あの国に行こう。水があふれるあの国に。
いつまでかかっても、思い続けよう。幻の国を。




