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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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星空動物園

星空動物園


「いたい!」


ケンは叫んで飛び上がった。ユニコーンは角を突き上げ、ケンを見下ろす。


「お前、いい加減にしろよ!エサやらないぞ!」


ケンが凄んでもユニコーンはどこ吹く風。頭をすっくと高くたて、遠くへ走っていった。


「くそぉ、あのやろう」


ユニコーンにつつかれたお尻をさすりながら、ケンは厩舎の掃除を始めた。


ケンは小さな頃から星空動物園が大好きで、大人になったら絶対に星空動物園で働くんだと決めていた。


ドラゴン、ペガサス、大熊、小熊。

夜空に輝く星座たち。彼らの世話をし、輝かせる大切な仕事。


胸ときめかせ初めて担当したのがユニコーン。

その美しい白いたてがみ、気品に溢れた長いツノ。ケンは魅いられ、思わず手を伸ばした。

次の瞬間、ケンはユニコーンの蹄で蹴りあげられていた。


ユニコーンは気高く、乙女にしか自らを触れさせない。

そんな基本的なことすら忘れてしまうほど、ケンはユニコーンに魅了された。


けれどユニコーンは、最初の一撃以来、ケンを馬鹿にしたようで、隙を見せるとそのツノでケンをつっついた。その度ケンは飛び上がり、ユニコーンは得意気にツノを揺らした。



「ケン、またユニコーンに可愛がられたんだって?」


社員食堂で、園長がケンの隣に座り、そうめんをすすりだした。


「はあ。またしてやられました」


園長はハッハと短く笑う。


「ユニコーンは気ぐらいが高い。おまけにわがままで横暴で自分の価値を知っている」


「ユニコーンの価値ってなんですか?」


園長は一息にそうめんをすすり終わると席をたった。そしてケンの肩をぽんと叩いた。


「早くそれを見つけるんだぞ」


そう言いおいて、園長はからになった器を持ち、去っていく。


「答えは無しかぁ」


ケンはため息をついてゴーヤ乗せ冷奴を飲み込んだ。


ユニコーンはゲンキンな生き物で、小さな女の子がやってくると、柵に飛び付かんばかりに駆けより、柵から頭を出して自身を撫でさせようとする。

柵は二重になっていて、内側の柵からユニコーンがツノをつき出しても、外側の柵には届かない。そうしておかないと、ユニコーンが男の子を突き刺しかねない。


ある日、ケンがユニコーンにつつかれながら運動場の掃除をしていると、ユニコーンが矢のように柵に向かって走った。いつもの様子からは想像できない力強さだった。


柵の外には一人の少女が立っていた。長い髪は腰まで届き、水色のワンピースが涼しげに揺れた。

少女の瞳は真っ赤で、今まで泣いていたのだとはっきりわかった。


ユニコーンは少女に近づくと、柵の間から顔をだし、少女のそばにツノを上げた。

少女は柵に乗りかかり、ユニコーンに手を伸ばした。

ケンは少女に見惚れた。柵に上ることを注意するのも忘れるほどに。


少女がユニコーンに触れると、ユニコーンは純白の体毛をさらに輝かせ、少女のほほを照らした。その不思議な光の中、少女はどこまでも透明に、どこまでも気高く、美しかった。


その長い一瞬が過ぎ、少女は柵からおりてスカートをはたいた。ユニコーンはツノをおさめ、少女を見つめて首をかしげた。

少女がにこりと微笑むと、遠くから一人の青年が走ってきた。

彼は少女の前で立ち止まると、少女を抱きしめた。その時の少女の笑顔は、ユニコーンに見せた気品をまとい、すでにレディの表情だった。


二人が歩き去るのをケンはじっと見送った。


「お前、案外おとなだな。あの子のこと好きなのに、彼の応援してやるなんてさ」


ケンの言葉を聞いていたユニコーンはケンの尻を思いきり突いた。逃げ出したケンを、ユニコーンはいつまでも追い続けた。


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