表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
340/888

8月6日(晴れ)

8月6日(晴れ)

いつもの朝だった。

主人と娘を送り出し、朝食の片付けをし、掃除をし、洗濯を終え、

一休みしようと勝子は露台に座った。

見上げればどこまでも青く澄んだ空。平和な朝だった。


八時を知らせる寺の鐘がなり、勝子は立ち上がる。庭の掃除と石垣の間から生え出した雑草抜きをしなくては。

それから庭のカボチャに水をやって。


カボチャはそろそろ食べ頃だ。ごろんと丸く立派にできた。勝子はにっこりとカボチャに笑いかけ、竹箒を手にして石垣に歩みよった。


突然、世界が真っ白になった。

なにもかもが閃光にのまれ、なにも見えなくなった。

そのあとのことを勝子は知らない。

なにもかもを原爆が吹き飛ばしたことも。


ただ、あれから七十年。勝子の影は、石段にくっきり縫い止められたまま、今でもそこにいる。

勝子の影は毎年訪れるこの日、また空をあおいでいる。

空はどこまでも青く澄んで、生きているものの影を生む。

今はもう、影だけしかなくなった勝子のことを知る人はない。


影は永遠の夏のなかに閉じ込められ、どこにも行けない。

風が吹くのを待ち続けることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ