小さな同窓会
小さな同窓会
「誠」
うしろから呼び掛けられて振り返ると、なんだか見覚えのあるような顔の男が立っていた。
「俺だよ、信平」
「おおお!なつかしー!どうしたんだお前、実家じゃなかったか?」
「お前に会いに来たんだよ」
「え?まじか、それでこんな街中で出会うなんて偶然ってすごいな!」
信平はうっすらと微笑む。子供の頃は誰よりもうるさかった信平とは思えない笑いかたに、誠の笑顔は固くなった。
「えー……っと。俺、まだ仕事中でさ、よかったら夜、飲みに行こうぜ」
「ああ」
「携帯番号教えてくれよ」
「ああ」
信平は誠に自分の番号を伝えると、すっと人混みのなかに紛れていった。誠は首をかしげながら、取引先の会社へ急いだ。
仕事が長引きすっかり遅くなった。誠は電話をかけながらオフィスから飛び出した。と、そこに信平が立っていた。
「信平!待ってたのか?悪い、遅くなって」
「いや、大丈夫だよ」
「じゃあ、行こうか。居酒屋でいいか?」
「ああ」
二人ならんで歩きながら誠は小さい頃の思い出を語る。信平が桜に上って枝ごと落ちたとか、二人で秘密基地を作ったとか。信平は静かにうなずくばかりで、誠の言葉は夜のなかに消えるようだった。
「ここなんだけど、ちょっと良い酒があるんだ。信平、酒は飲めるよな?」
信平は静かにうなずく。
店に入ると、二人はカウンターに通された。誠はおしぼりで顔を拭きながら店内を見渡した。四人掛けの席がまだ空いてるのに珍しい。
信平はじっと黙ったままカウンターを見つめていた。
取り合えずビールと軽いつまみを頼み小さく乾杯する。
誠は一気にジョッキの半分を飲み干したが、信平はちょっと口をつけただけでジョッキを置いてしまった。
「信平、俺になにか話したいことがあるのか?」
信平は小さくうなずくと、口を開いた。
「探してほしいんだ」
「なにを?」
「秘密基地の近くに埋まってる」
「だから、なにが?」
「もう半年経った」
信平は誠の言葉が聞こえていないようにぶつぶつとしゃべる。
「騙されたんだ。あいつがなにもかも盗んでいった。そして埋めたんだ」
「……なにを?」
信平は誠の目をはっきりと見つめた。
「俺の死体を」
その時、信平の姿が突然消えた。まるで最初からいなかったかのように。信平が座っていた席には何もなかった。ビールのジョッキも、水滴も消えていた。
死体はすぐに見つかった。秘密基地のすぐそばの林の中、獣が掘り返したのか、死体は土の中から顔を出していた。
信平は腐り、骨が飛び出していた。
「信平」
その時、誠の携帯が鳴った。着信番号を見ると信平からだった。
「信平?」
『誠、ありがとう』
それだけ言うと電話はすぐに切れた。誠は信平の携帯番号をアドレス帳に登録して歩き出した。信平から電話がかかることは二度となかった。




