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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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進め前に前に前に

進め前に前に前に

何年ぶりだろう。

コンビニの有線でDef Techがかかっていた。


私たちが出会った頃、Def TechがデビューしてMy Wayが大ヒットして。私たちは二人でハモろうとカラオケに通いつめた。

あんなに熱い夏はもう来ない。

私はスーツを来て湿気た街を歩き、彼は田舎で農業に汗を流していることだろう。


学生の頃は夏場にスーツを着ている大人が信じられなかった。その頃の私は夏制服のブラウスの袖をあげスカートをバサバサと仰いで、それでも汗は止まることはなかった。


学校を卒業して、就職して、大人の顔を作るたび、体温は下がっていった。アスファルトが跳ね返す熱も私を熱くすることはなく、私は夏の真ん中で冷えている。


彼はどうだろう。冷えきっているだろうか。それとも……


メール着信音が鳴った。


『久しぶりに有線でDef Tech聞いた。懐かしくてメールした。元気か?夏バテするなよ』


瑞々しい真っ赤なトマトの写真が添付されていた。なんだか本当の夏を見た気がした。


空を見上げた。いつ以来だろう、空を見たのは。真っ白な入道雲が南の空一面に広がっている。

風が吹いて汗を冷やす。

そうか。

私は今、夏を生きているのか。


ジャケットを脱ぎ、大股で歩き出す。

今日は帰りにレコードショップに寄ろう。新しい夏の歌を聞こう。新しい夏の思い出を作ろう。


そして彼にメールしよう。


『素敵な曲を見つけたよ。一緒に聞こう』

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