時空を超えてみたりなんかしたりして
時空を超えてみたりなんかしたりして
気がつくと、見知らぬ部屋にいた。
広々としたフローリングに畳が四枚だけ置いてあって、そこに寝かされていた。私の上にはなぜか着物がかけてあった。なぜ着物?
古い木造家屋は風通しがよすぎて、初夏だというのにくしゃみが出た。扉がなくて全開だからそのせいなんだけど。部屋の隅に何本か柱が立っていて、スダレみたいなものがかけてあるだけ。壁、どこ行った?
私は立ち上がると部屋の外、庭に面した廊下に出た。どうやらこの廊下は建物の周りをぐるりと囲んでいるようだ。お寺みたいな作り。
「おお、気がつかれたか」
突然の大声にびくっとすくんだ。そちらを見るとちょんまげを結ってよくわからない着物を着た男の人がこちらに歩いて来ていた。
「巫女どの、ご気分はいかがですかな?」
「みこどの?」
私は左右を見渡す。ここには私とちょんまげの人しかいない。
「おお、まずは仔細を語らねばなりませんな。あなた様はこの戦乱の世を平らげる救世の巫女。麒麟を呼び、仁なる王を立たせて下さるお方」
「ふおおおおお! トリップものキタコレ!」
興奮のあまり叫んだ私の勢いに気圧されたのか、ちょんまげの人が一歩引いた。引かれたってかまうもんかい! この感激を表現するには叫ぶしか!!
アニメやゲームやその他もろもろの主人公たちが異世界へ召喚されて活躍する姿を見るたび憧れていたタイムトリップが、とうとう私にやってきた!
「そ、それでここは戦国ですか!? どこの武将!? 上杉!? 武田!? まさかの織田!?」
「いや、溝口家にござる」
「みぞぐち? えっと……日本のどこら辺の国ですか?」
「豊後竹田の庄でござる」
「……ぶんご……って、どこ?」
「九州にござる」
「……あ、そ、そう。あ! うるわしいお殿様との恋愛は!? お館様はどんなイケメン!?」
「いけめん? さて巫女どのの国の言葉はちと難しくございますな。とまれ、お館様にお目通りいただきましょう、こちらへ」
私は案内されるまま廊下を進む。トリップもののお約束、主人公な私は華麗な恋に落ちちゃうぞ! 荒くなる鼻息を押さえ、ついでに制服のスカートの埃を払う。
「お館様、巫女どのをお連れいたしました」
ちょんまげさんがひざまづいて頭を下げる。私も頭を下げておく。立ったままだけど。
「巫女どの、遥かよりのご来臨、とつぜんのことで驚かれたこととぞんじます」
凛とした透き通った声。私の胸がどきんと音をたてる。
「どうぞお顔をおあげ下さいませ」
そっと頭を上げると、そこには……。
「え?」
美しい人がいた。
緋色の衣をまとった。
見目麗しい。
……姫が。
「ひ、姫さま……?」
「はい。わたくしは妙と申します。巫女どの、どうぞこちらへ」
呆然とした私は手招かれるままに部屋の中に進む。妙さんの目の前にぺたりと座る。そこでハッとして妙さんにすがりついた。
「従者! 私の従者がイケメンで恋に落ちるパターン!?」
「いけめん……。とはどういうものか知り申しませぬが、もちろん従者はお付けいたします。是貞」
「はい」
低く渋い声。こんどこそ!? 振り返ったそこには、渋い……、おじいさんが。
「あの……、このお屋敷には若くて威勢の良い若い男の人とかいないんですかね」
妙姫さんは眉根を寄せ、悲しそうに顔を伏せた。
「先の戦で盟友大友氏の元に派遣し、皆々帰り来ず……」
「あ、あ、そうだったんですね、ごめんなさい。それで、私はなにをすれば?」
そっと涙を拭きながら妙さんは私の手を握った。
「巫女どのには京の都に赴き、四神の封印を解き麒麟を呼びだしていただきたいのです」
「京の都って、京都?」
「はい」
「ここは?」
「豊後です」
「九州?」
「はい」
「京都までは、どうやって行くの?」
「馬を用意してございます」
「乗れません」
「まあ。それでは少々慣れていただきませんと。是貞」
「はい」
「巫女どのに馬乗りの手ほどきを」
「かしこまりました」
私は是貞さんに手を引かれ馬場に連れて行かれた。おじいさんだけど渋かっこよくて是貞さん、イイ! ちょっとわくわくしてきたぞ! 乗馬、がんばろう!
「……これ、何ですか?」
「馬にございますが」
「……トカゲに見えます」
「とかげ……。はて巫女どのの国の言葉は……」
「それはもういいって! これはどう見ても馬ではなくてトカゲ! 爬虫類! ついでに大きすぎ!」
「いや、そう言われましても、拙者どもはこの馬にしか乗りもうさぬ」
「私は爬虫類はだめなのー!!」
タイムトリップだけかと思ったら、本格的に異次元に来ていたみたいだ。是貞さんは私の手を引きトカゲに触らせようとする。
「大丈夫、大人しい生き物でござるゆえ」
「いーやーだー! おうちに帰るー!」
ああ、トリップものの主人公たちが帰りたがっていた気持ちが初めて分かった……。私は空を仰ぎ、異次元への扉が開いていないか必死に探したのだった。




