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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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うすら明るい水の底に

うすら明るい水の底に

「あ、亀がいるよ!お父さん!」


息子が指差した先に、小さな池があった。柵で囲まれて菖蒲の葉が繁っている。

その池の端に、なにやら黒っぽい丸いものが浮かんでいる。一見、亀のようにも見えるが、それにしては大きい気がする。


「見に行こうよう」


息子に手を引っ張られ池のそばまで歩く。

丸いものは、私たちの足音に気づいたのか、とぷんと水の中に沈んだ。


「あー。いなくなっちゃった」


息子が走って池の端に走り寄り、柵から顔をつき出して池を覗きこんだ。

途端、火がついたように泣き出した。


「どうした!?」


息子は私に抱きつき泣き続ける。

私は水の中をのぞきこんだ。


目があった。


うっすらと明るい水の底に女性が沈んでいた。

濁った目で私を睨んでいる。ゆらゆらと揺れる髪は長く水面に届き、今にも私の足を絡めとりそうに思えた。


私は息子を抱いて走って逃げた。


その後、池の近くには近づいていない。

息子はすぐに忘れたようで、すぐに明るく笑いだした。


「パパ、亀がいるよ!」

息子が川に走っていく。

私は一瞬躊躇して後ろをついていく。


あれ以来、ついぞ濁った瞳には、出会わない。


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