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金の糸 82
「絢香、聴取です」
シンデレラが絢香を呼びに来る。
絢香はのろのろと身を起こす。
異形の地で腰まで伸びていた髪は今やくるぶしまで届き、絢香が動くたびに体にからまり動きの邪魔をした。
なんどもシンデレラから、切りましょうか?と訪ねられたが、絢香は首を横にふった。
日に当たらない生活のせいか、絢香の髪はほとんど金と言えるほどに退色していた。
何度も何度も繰り返されるSUomi。絢香はその言葉をまるまる暗記してしまった。もはや通訳など必要ない。
『あなたは何人か』
「日本人です」
『あなたの渡航目的は』
「異形からの保護です」
『異形とは』
「別の星の生き物です」
審問官はため息をつく。
『宇宙人など存在しない』
「見たはずです。人間の三倍はある生き物の死体を。それが乗ってきた不可思議な乗り物を」
審問官は苦笑いする。
『そんなものは存在しない。君は幻を見たのかね?』
無意味な問答は二年間続けられた。絢香は髪を編み、肩から前にたらし、歌を歌った。
カナリヤの歌を。
金の檻のなかで歌った歌を。




