金の糸 81
シンデレラは毎日、絢香に会いに来てくれた。日本語で話し、日本語で聞いてくれた。
絢香はシンデレラの親切に感謝し、しかし、アンナの立場が変われば途端に意地悪な姉さんになるのだと、心を開くことはなかった。
ある日、シンデレラが嬉しそうに絢香に語りかけた。
「iyun o`n beshinchi sanaは、ああそう、あなたが雷三と呼ぶ少年は、国に帰れることになりました」
「雷三が!雷三はどこの国へ帰るんですか!」
「O`zbek」
「おぅ……ずべき?」
「日本語ではなんと言いましたか……ウズベキ……」
「ウズベキスタン!?」
「おう!それです!」
シンデレラはにこにこと、それは嬉しそうに笑った。
「よかったですね」
絢香は胸のなかで嵐が起きたかのようで、自分の胸をかきむしった。
雷三は帰れる。
雷三に会いたい。
私は帰れない。
雷三に会いたい。
私は檻のなか。
雷三に会いたい。
『同じ檻のなかなら居心地いいほうがいい』異形の地で演歌を歌いながら言ったあの人。
雷三に会いたい。
「ここにいたら自由だ」そう言って星に留まった人。
雷三に会いたい。
ああ、雷三、雷三は帰れる!
故郷へ!
檻から放たれて!
見渡す限りの草原。
切り立った山にところどころひょろりと樹が立っている。
羊の群れだ。
雷三は鞭をふるい指笛を吹き羊の群れを追いたてる。そばには彼の幼い妹がつきまとう。雷三は、いやiyun o`n beshinchi sanaは妹の頭をなで、肩を抱く。
iyun o`n beshinchi sanaが見つめるのは、ただ向かう先、切り立った山の頂だけ。彼は過去のことなど忘れてしまう。
絢香のことなど忘れてしまう。
絢香は涙でグシャグシャになって目覚める。




