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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 79

町に連れ戻された絢香と雷三は別々に警官に連れられて留置所に入れられた。絢香は言葉が通じない不安に加えて雷三と離されて、小さな子供になってしまったような不安を感じた。

留置所の壁に据え付けられたベッドはぎしぎしと軋み、ベッドパッドは湿って嫌な臭いがした。絢香は部屋の隅、鉄の檻に身をもたせかけてうずくまり、一睡もできなかった。


翌朝、早い時間に元宮が警官を二人引き連れてやって来た。檻越しに絢香に話し出す。


「あなたの引き受け部署が決まりました」


「引き受け部署って……?」


「フィンランド政府の公安機関です」


「フィンランド?ここはフィンランドなんですか?」


元宮は絢香に見下したような目を向けただけで、質問は無視した。


「これから移動して事情聴取を受けてもらいます。通訳者がつきますからご心配なく。それから……」


「雷三は!?雷三はどうなるんですか?」


言葉を遮った絢香をイライラと見おろしながら元宮は今度は質問に答える。


「彼も事情聴取を受けてもらいます」


「一緒に行けるんですね?」


元宮は軽く首をかしげる。絢香が何を聞きたいのか理解できていない、と態度で示したようだった。


「向かう先は同じです。けれど移動は別です」


絢香は顔を伏せた。元宮はまだなにかを話していたが、絢香の耳には届かなかった。



フィンランド政府はスパイ容疑がかかっている人間にも人権を認めてくれるらしい。手錠をかけられることもなくパトカーに乗せられた。元宮は見送りもせず警察署内に戻っていく。

サイレンは鳴らず、運転は丁寧で、絢香は怯えることもなくフィンランドの町並みをぼんやりと見ていた。

両脇を警官に挟まれていなければ観光気分にもなれただろうか。それとも人の体温を身近に感じられるぶんだけ落ち着いていられたのだろうか。


連れてこられたのは美しく歴史の古そうな石造りの建物だった。

パトカーを降りた絢香は辺りを見回してみたが、雷三が連れてこられた様子は見られなかった。


建物を入るとすぐ、三十代くらいの赤毛の女性が待っていた。


「原田絢香さんですね」


絢香は黙ってうなずく。


「私は通訳をします、アンナ・ハッシネンです」

アンナは手を差し出した。絢香はおずおずとその手を握った。すこしカサッとした、指の節の太い手だった。働き者の手だ。

絢香は肩から力が抜けるのを感じた。


「まずは着替えましょう。簡単な衣服ですが、準備してあります」


アンナに先導され警官に挟まれ白い廊下を進む。壁もドアも人間サイズで妙に小さく感じ、絢香は天井が落ちてくるのではないかとひやひやした。

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