金の糸 77
森の中での警察の捜査は夜までかかっても終わらなかった。
途中、何度か警官がハンナに質問を投げかけ、ハンナが答えることがあった。警官は絢香と雷三にも何かを尋ねたが、二人には言葉がさっぱりわからない。
「ジャパニーズ」
絢香はそれだけ答えると、雷三の肩に身を預けうとうとと目を瞑った。
黒い生き物だ。
しゅーしゅーと息を吐きながらとぐろを巻く。異形がその生き物に丸い筐体を被せ三本の足をつける。
生き物はしゅーしゅーという息を激しくし、その息で筐体は宙に浮いた。
空飛ぶ船は宙に浮かんだかと思うと急降下した。
地面には金の糸に巻かれた異形たち。空飛ぶ船は異形に飛びかかり踏み潰す。
また宙に浮かび飛び下りる。下にはあの星にいたシンデレラ、継母、少年、エリー。みんなまとめてぺしゃんこ。
譲二、ミドリ、村のみんな目掛けて乗り物は急降下する。
操縦席には絢香。残忍な顔で船を操り、誰も彼もを踏み潰そうとする。
急降下する。
「やめてー!」
自分の叫びで絢香は目覚めた。絢香を膝に抱き、雷三は眠ったままぴくりとも動かない。
絢香はがばっと起き上がると雷三の鼻先に指を近づけた。確かな呼吸を感じた。ほっとして手を離す。
広場には投光器が置かれ、真昼のように明るかった。絢香は空を見上げてみたが、明るすぎて星が見えない。
警官たちは異形を縛る金の糸をはずそうと躍起になっていたが、金の糸はびくともしない。
絢香は立ち上がり、おずおずと警官たちに近づいた。
「あのぉ、金の糸は異形にしかほどけないんですよ……」
そっと語りかけてみるが、警官たちは肩をすくめるだけだ。
「あの生き物の手であればほどけるのね?」
突然、後ろからかけられた声に驚き振り向くと、ピンストライプのスーツに細い銀縁の眼鏡をかけた女性が腕組みして立っていた。




