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金の糸 74
「街だわ!」
森が切れた崖の上から、遠くに港街が見えた。
人間の街だ。
見慣れた海、船、三角屋根、そして人混み。
「人間だ!」
雷三が身を乗り出して叫ぶ。
ハンナはそんな二人を置いてさっさと歩き出す。二人は急いで後を追った。
夕方には街についた。
絢香と雷三は道路の真ん中に立ってぽかんと口を開けた。
色とりどりの建物。 縫製された服。行き交うたくさんの人間たち!行き交うたくさんの車!
二人は激しいクラクションに追いたてられ道の脇に避けた。
通りをいく人々は二人を奇異の目で見ていく。
ぼろぼろの布をまとい、足にも布を巻いただけ。絢香は恥ずかしくなって俯いた。
「絢香、どうしたの?」
「私たち、服着てないじゃない。恥ずかしい……」
「なんで?裸じゃないよ?」
「そういう問題じゃないよ。皆からヘンに思われるじゃない」
「だって俺たちにはこれしかないんだ。これで歩くことは悪いこと?」
「悪くはない、悪くはないのよ」
ハンナがなにか号令をかけ、皆はついて歩く。向かったのは街の中心地、警察署だった。




