金の糸 73
森のなかが暗くなるのは日暮れよりもずっと早い時間だった。ハンナは木がまばらなところを選んで下草を踏みしめてならし、今夜のキャンプを作った。
ハンナが持っていた防寒具にマリをくるみ、大人たちは身を寄せあって夜気から身をかばった。
ユッカとハンナがポツリポツリと話し出した。できるかぎり英語を使ってくれたが、絢香には聞き取ることができなかった。
ただ、今向かっているのがTownであることはわかった。
マリがぐずりだした。
地面ではうまく寝ることができず、親から離されて、真っ暗な森のなか。大人たちでさえ心細いのだ。
絢香はマリを膝に抱き、子守唄を歌ってやる。
マリはぐずりながらも徐々に静かになっていく。
ふいに雷三が絢香とあわせて歌い出した。高く引く響く声にマリはいつしか眠りについた。
「雷三、なんで子守唄を知っているの?」
雷三は困ったように笑う。
「絢香が歌ってくれたろ。俺が子供の時」
絢香はくすりと笑う。
「子供の時って、つい最近じゃない」
「うん。俺はつい最近まで子供だった。けど今は違う」
雷三は強い瞳で絢香を見つめる。絢香もしっかり見つめ返す。
「うん。今は違うよ」
雷三は絢香の手をぎゅっと握った。




