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金の糸 72
ハンナもユッカもマリも、自分の鼻を指差して「Suomalainen」と言った。どうやら名前ではない、と絢香にもわかったが、それが意味するところは知らなかった。
ハンナは森に詳しいようだった。
方位磁石と木や草の様子を探って道を決めていく。
時おり立ち止まり、野生のベリーを摘んで皆に食べさせた。久しぶりに食べる地球の食物。
昨夜もらったチョコレートも今日のベリーも絢香は泣きそうになりながら頬張った。
昼過ぎに一行は川縁に出た。そこで休憩する、とハンナが告げた(と絢香は思った)。
絢香は川の水を飲んでみた。
冷たくて透明な味しかしなくて喉に引っかかる。けれど、これは本当の水だった。絢香は泣きながら、お腹がちゃぷちゃぷと音をたてるまで水を飲み続けた。
懐にしまっていた異形の星のエサをみんなに分けた。
雷三は頑として受け取らず、suomalainenの三人は美味しそうに平らげた。
川をわたり南に向かう。小さなマリはユッカが背負った。
夕方、西の空が真っ赤に染まった。
「夕焼け……きれい」
呟く絢香の瞳は潤み、夕日の赤をうつしてルビーのように輝いた。




