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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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星をみあげて

星をみあげて

もう、二時間。


葉子と並んで、夕焼けで赤く染まった川を眺めている。


黙ったまま、ぼーっとしている。


「恋愛ってさ」


独り言みたいに、葉子がつぶやく。


「恋愛って、お互いを見つめ合うことなんだって。そんでさ」


ぽつり、ぽつりと言葉をつむぎ、また、だまってしまう。


僕は川を見たまま、聞くとも無く聞いている。


「結婚はさ、二人で並んで同じところを見つめることなんだってさ」


「そうか」


「うん」


また、黙る。


 


結婚しよう、と言ったのは僕だった。


わかれよう、と言い出したのは葉子だった。


二人で向かい合って長い時間、話したが、お互いの気持ちはどちらも変わらなかった。


結婚したい、と僕は思う。


わかれたい、と葉子は思う。


残照が引いていき風が冷たくなってきた。


結論は出ないが、いつまでもここに座っているわけにもいかない。


「あたしは」


また、葉子がぽつりと言う。


「もう、あなただけを見つめることはできない。あたしにはやりたいことがあって、どうしてもそこを見つめてしまうから」


僕は川を見たまま、聞くとも無く聞いている。


すっかり暗くなり街灯もない川原ではお互いの顔も見えない。


「あ」


葉子が、空を指差す。


「星」


葉子の指の先、たしかに、明るく輝く星が見える。


「僕には、夢を見ている君の顔はきっと見えない。けど」


葉子が指差す星を、僕も指差す。


「同じ星を並んで見つめることはできる。それじゃ、だめかな」


葉子がどんな顔をしたのか見ることは出来なかった。


僕たちは並んで星を見ていたから。


「行こう。あなたと見つめあいたくなった」


葉子が立ち上がり、言う。


「明るいところで、顔を見よう」


僕は聞くとも無く聞いていて立ち上がると、葉子の手を握って街明かり目指して歩き出した。


「珈琲聖道でいいかな。あそこなら、カウンターがある。二人で並んで、壁にかけてある、あの十字架を見つめて珈琲を飲もう」


葉子は黙ってうなずいた。

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