金の糸 70
長身の女性だった。長い髪は薄い金色で、着ている服は登山服のようだった。
「大丈夫ですか?」
絢香が駆け寄って尋ねたが、女性は言葉がわからず、たぶん状況もわかっていないのだろう。ぽかんと口を開けた。
「絢香、他の金の糸もほどこう」
雷三が繭の端を引っ張っているが、びくともしない。
「ああ、雷三。金の糸は異形にしかほどけないのよ」
二人は異形を見つめた。異形は空を睨み付けている。今はおとなしくしているが、金の糸をほどいて人間を自由にしてくれるとは思えなかった。
「……異形の指の先に引っかけてみましょうか」
二人は繭をころころと転がし異形の腰の近く、縛り付けられた手首の先まで近づけた。
絢香はそっと異形の手に触れてみたが、異形はぴくりとも動かない。
二人は繭を異形の指先に引っ掻けようとした。
「キャー!」
突然の大声に異形がびくりと身をすくめた。開いていた指先が拳の中にしまいこまれてしまう。
叫び声をあげたのは登山服の女性だった。異形を見て目を見開き口を覆っている。女性は声が続くかぎり叫び続けた。
「Are you OK?」
絢香が女性に近づき、恐る恐る女性に尋ねると、彼女はぼんやり絢香を見上げ小さく頷く。絢香も頷き返すと、女性の肩をぽんと叩いた。
異形のそばに戻り、異形の手に繭を擦り付ける。繭はするするとほどけていき、中から長身の少年が出てきた。やはり気を失っている。
残り三つの繭もほどいた。中から出てきたのは幼児一人と赤ん坊が二人だった。
幼児は安らかな寝息を立てていたが、赤ん坊は二人とも息をしておらず、体は冷たく固くなっていた。
「ひどい……」
絢香は呟く。雷三は顔をしかめて背けた。
雷三は繭をほどいて出た金の糸を掴みあげると、全てを異形の体に巻き付けた。異形は身動きもできないほどぐるぐる巻きにされた。それでも雷三は異形を睨んで目をそらさなかった。




