金の糸 68
「雷三、道わかる?」
昨夜二人はあてもなく暗いなかを駆け抜けた。道などない森のなか、しかも今は靄で視界もきかない。
「俺たちの足跡をたどれると思う」
雷三はしゃがみこむと草の根をじっくり観察した。
「こっち、足跡を踏まないように歩いて」
一見すると足跡などどこにもないように見えた。絢香は雷三を真似てしゃがみこむ。視点が低くなると、なるほど草が踏まれてつぶれているのがよく見えた。
二人はちょこちょこと休憩をはさみながら森を進んだ。次第に靄が晴れ、木漏れ日がさした。あちらこちらから鳥の声が聞こえ、風が吹けば葉擦れの音がする。
爽やかな初夏の陽気のように思われた。
昨夜、宇宙船が着陸した場所についた。その開けた場所は陽だまりになっていた。絢香は駆け出し、空をあおいだ。
三年ぶりに見る青空だった。
白い雲、まぶしい太陽、髪を揺らす風。
「地球だわ!」
絢香は両手を空にあげ、目一杯、背伸びをした。
太陽の光は体を暖め、夜露に濡れた服を乾かした。
絢香は雷三の手をとり、ぶんぶんと振った。雷三もにこにことはしゃいだ。
太陽が中天に昇るまで、二人ははしゃぎ回った。駆け回り、草に寝転び、かくれんぼをした。
「雷三!これを見て!」
突然、絢香が深刻な声で雷三を呼んだ。絢香が指差したのは一本の丈高い木の上だった。
「金の糸だ!」
見上げた先には、金の糸が太い枝に引っかかっているのが見えた。
「なんでこんなところにあるのかしら……?」
「異形が隠したのかな」
「忘れていったのかもしれないわね」
「俺、取ってくるよ」
雷三はするすると木を上り、金の糸を手繰り寄せると地面に落とした。金の糸は全部で三本あった。
「異形はこれを取りに戻ってくるかしら」
「来るかもしれない。待ってみよう」
二人は木陰に隠れ夜を待った。




