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金の糸 67
鳥の声で目を覚ました。
森のなかは靄が立ち込め伸ばした手の先が見えないほど視界が悪かった。
頭からかぶっていた黒い布が湿気をすって重たくなっていた。
「絢香、起きた?」
顔をあげると雷三が靄の中から姿を表した。
「おはよう、雷三」
雷三は絢香の隣に座り、絢香の手を握った。
二人はぼんやりと流れる靄を見ていた。
「私たち、帰ってきたのよね」
「帰ってきた」
「ここは地球よね」
「そうだ、地球だ」
二人は顔を見合わせた。二人とも途方にくれたような顔をしていた。
「これからどうする、絢香」
絢香はしばらく口をつぐんで考え込んだ。それから恐る恐る話し出した。
「昨夜の宇宙船、もう飛んでいったかしら」
「たぶん」
「また戻ってくるかしら」
「わからない。どうして?」
「人間を捕まえに来たんでしょ?私たちは帰ってきたけど、かわりにあそこに連れていかれる人がいるんだわ」
雷三はじっと絢香の目を見つめた。
「助けたいんだね」
絢香はうなずく。
「行こう」
雷三は絢香の手を引いて立たせると、靄の中に進んでいった。




