295/888
金の糸 66
二人は手を繋いで森の中を駆けた。膝下を草が擦り血がにじんだ。
足に巻いた布に夜露が染み込み、体を冷やす。けれどそんなことには構わずに二人は走り続けた。
辺りの木に、絢香は見覚えがなかった。
松でも桜でも杉でも白樺でもない。けれど地球の木だ。絢香は確信をもって頷いた。
数分走って雷三は足を止めた。絢香は膝に手をつき肩で息をする。
「大丈夫、絢香?」
絢香は後ろを振り返り異形が追ってこないことを確認した。
「も、もうだめ」
絢香はその場にへたりこんだ。雷三は絢香の背中を撫でてやる。
しばらく休み、二人は立ちあがり辺りを見回した。
枝葉が生い茂り、闇が深い。それでも頭上を見上げると、ちらちらと空が見えた。
「月の明かり……」
慣れ親しんだ空。見慣れた月の光。闇のなか、わずかに感じられる程度でしかなかったが、それだけで十分だった。
「帰ってきたんだわ、地球に」
絢香と雷三は手を握り、いつまでも頭上を見上げ続けた。




