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金の糸 65
開いていくハッチの隙間から漏れ入る月明かりで船倉のなかの様子が見えた。金の糸と檻以外、ここにはなにもない。絢香と雷三は、輪状にまとめられた金の糸の束の後ろに隠れた。
ハッチが完全に開くと、背の低い男の異形が入ってきた。二人が隠れている方へやってくる。
男は金の糸を無造作に掴みあげると、船倉の外に放り出す。五つ投げた時点で船外に出て金の糸をほどきはじめた。二人が隠れていた場所は見つからなかった。
「行こう!」
雷三が駆け出す。絢香も後を追う。ハッチから外のようすをうかがう。辺りは木が生い茂る深い森のようだった。宇宙船は木が開けたところに停まっている。
異形は仕事に没頭していた。明かりは月だけで、森のなかに入ってしまえば、異形からは見えなくなるだろうと思われた。
二人は気配を隠しもせず船倉から飛び下りると森の奥へとかけこむ。
音に気づいた異形が振り返ったときには、二人は木陰に隠された小暗い獣道を駆けていた。
森は黒々と二人の姿を飲み込んだ。




