くろとしろ
くろとしろ
しほちゃんは、お昼ごはんのあと、画用紙にクレヨンで、絵をかいていました。
ぽかぽかあたたかい日でおなかはくちくて、しほちゃんは、うつらうつらすると、ことん、と寝てしまいました。
しほちゃんが、すーすー、寝息を立てているのを確認して、クレヨンたちがニョキニョキっと立ち上がりました。
「あ〜あ。らんぼうに握るから、体が半分で折れちゃったよ」
「私なんか、あちこち塗られるから、もうすぐ無くなっちゃうんじゃないかって心配だわ」
クレヨンたちは口々に好きなことを言い合いました。
いかにも困っているふうに言っていますが、クレヨンたちはみんな、しほちゃんが自分を使ってくれることを嬉しく思っていました。
どんどん使われて背が小さくなることが、クレヨンたちの誇りでした。
「みなさん、聞いてください!」
とつぜん、クレヨンの箱の中で立ち上がった黒クレヨンが叫びました。
「ぼく、黒クレヨンと、白クレヨンは、今日、結婚します」
黒クレヨンと、ピッタリくっついて立つ白クレヨンを見て、クレヨンたちは、ひそひそと言います。
「おい、のっぽたちが、何か言ってるぜ」
「毎日ヒマすぎて、頭がヘンになったんじゃない?」
クレヨンたちは、いつもしほちゃんに選んでもらえない黒いクレヨンと白いクレヨンのことを、「のっぽ」と言って馬鹿にしていました。
「ぼくたちはハコの中で、毎日、語り合い、愛をはぐくみました。今日は、ぼくたちで絵を描いて、みなさんに見ていただこうと思います。これを、結婚式にしたいと思います」
黒クレヨンが高らかに言うと、また、クレヨンたちは、クスクスひそひそ悪口を言い合いました。
「白と黒で絵を描いたって、葬式にしかならんよ」
「のっぽたちらしい、ジミ婚ね」
黒クレヨンと白クレヨンは、お互いしか見えていないよう。悪口なんて、どこ吹く風。
仲良くハコから飛び出すと、画用紙の上に降り立ちました。
色とりどりのクレヨンたちが取り巻く中、黒クレヨンは、画用紙を端から黒く塗っていきました。
白クレヨンは、その上に、次から次と絵を描きます。
まっしろなチャペル、純白のドレスにヴェール、白バラのブーケに白いリボン…
「きれい!」
「まあ、すてき!」
桃クレヨンと黄クレヨンが、思わず叫びました。
「なかなかいいじゃないか。おれも描いてやろう」
「よし、ぼくも!」
クレヨンたちはわれ先に、黒く塗られたクレヨンの上に、絵を描こうとしました。
しかし、黒の上に塗ると、どの色も汚くにごり、みんなはぞろぞろと画用紙から降りていきました。
その間にも、黒クレヨンは、どんどん画用紙を黒く塗り、白クレヨンは白いお家や、白い産着の赤ちゃんを描いていきました。
黒クレヨンも、白クレヨンも、今まで見たことがないほど、楽しそうに、嬉しそうに、絵を描いていました。
「黒クレヨンには、白クレヨンが一番似合うんだな」
「白クレヨンには、黒クレヨンが必要なのね」
画用紙いっぱいに絵を描き終わった黒クレヨンと白クレヨンが、ぴょんと起き上がると、クレヨンたちは、いっせいに拍手で迎えました。
「すばらしい式だった」
「おめでとう、しあわせに」
その時、しほちゃんが「うーーん」とうなりました。目を覚ましそうです。
クレヨンたちは、パタパタと倒れ、動いていないふうを装いました。
目を覚ました、しほちゃんは、むにゃむにゃと目をこすると、画用紙を見ました。
「うわあ!!」
しほちゃんは叫びました。
「きれいなドレス!いいなあ、しほ、このドレス着て、お嫁さんになりたいなあ」
台所から、ママが呼ぶ声がします。
「しほー、おやつよー」
「はーい!」
しほちゃんは元気よく走っていきました。
部屋のドアが閉まると、白クレヨンはむくっと起き上がり、画用紙に絵を描き始めました。
しほちゃんの似顔絵です。
絵の中で、しほちゃんは、ブーケを受け取り、嬉しそうに笑っています。
「次は、しほちゃんが花嫁さんよ」
白クレヨンは、そう言うと、ピョンピョンとハコに戻りました。
そうして、いとしい、いとしい旦那様の隣に、横になりました。
黒クレヨンと白クレヨンは、もう、のっぽではありません。
他のクレヨンたちと同じくらいの背丈になっていました。
おやつを食べて戻ってきたしほちゃんが、どの色のクレヨンをつかうのか?
それは、また、べつのお話です。