金の糸 60
ビービーという音がした。紺色の制服を来た異形は隣の部屋に戻っていく。
この日、絢香は彼の胸に抱かれたまま、何度も部屋を行き来した。
貨物室のもう一つの扉が開いて、長身の異形が入ってきた。同じ紺色の制服を着ている。
ずんぐり体型と長身、というアニメみたいな取り合わせの二人の異形は短く言葉を交わし、持ち場を交代した。長身の異形は目を細め、絢香の頭を撫でた。
絢香を抱いたまま、ずんぐりの異形は初めてくぐる扉を通り、次の部屋に入った。
「雷三!」
その部屋の中央、開きっぱなしの金の檻の中、雷三が寝転んでいた。
「絢香!?なんでここに!」
「あなたをさがしに来たのよ!決まってるじゃない」
雷三はぽかんと口を開けた。絢香は雷三に駆け寄り飛びつく。雷三は勢いに負け床に倒れた。
「雷三……。今までどうしてたの」
絢香は雷三の頬を両手ではさみ、顔を近づけた。雷三の顔が真っ赤になる。
「絢香、ち、近いよ……」
「私、すっごく心配したのよ。一ヶ月もなにをしていたの?」
雷三は絢香の肩をぐいぐいと押して立ち上がらせた。
「ちょっと……怪我しただけだよ」
「けが!!?」
絢香はがばっと雷三に覆い被さり、全身を点検した。左足に白い布が巻き付けてある。
「どうしたの!?大丈夫!?」
絢香は雷三の両肩をつかむ。雷三は苦笑いして答えた。
「もう治ったよ。荷物の下敷きになったんだけど、その人が助けてくれたんだ」
雷三がずんぐりの異形を指差す。絢香は異形に向き直り、深々と礼をした。異形はにこにこと二人を見つめている。
「一ヶ月もなんて、ひどい怪我だったのね」
「なんてことないよ。左足が壊れて歩けなかっただけ」
「壊れてって……、まさか折れたの!?」
「ああ、折れたっていうのか。うん。立てなくなった」
絢香はぼろぼろと泣き出した。
「わ、わたし、知らないで、ぼーっと村で、ぼーっと……」
雷三は絢香を抱きしめた。
「ごめん、絢香。泣かないで。帰らなくてごめん。心配させてごめん」
絢香はふるふると首を振る。
「雷三は悪くない。ねえ、こんなところに一人で寂しくなかった?」
「寂しくなかった。けど……」
「けど、なに?」
「絢香にあいたかった」
絢香は雷三に抱きついた。




