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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 54

異形の警察官はファイルらしきものをめくり、いくつかの書類をピックアップした。そしてミドリに手を伸ばした。ミドリは警官の腕に飛び込み抱かれた。警官は絢香にも手を伸ばす。


「いくよ、あやか」


「どこへ?」


「まいごをさがしにいくって!」


絢香は思いきって異形の手の中に飛び込んだ。


異形の警官は大柄で、絢香とミドリは楽々と警察官の懐に入り込んだ。

そこには様々なものが入っていた。

貨幣、人間のエサ、何かの紙切れ、鞘に収めた短刀、それから、金の糸。

絢香はできるだけ金の糸から距離をとった。


「あやか、ついたよ!」


ミドリが警察官の手を引き下ろしてもらう。絢香も恐々と異形の手に滑り込む。ふわりと体が浮き、異形の手は床についた。絢香はそっと手から離れた。

広々した場所に、粗末なテントが何張も立てられている。まるで巨大なフリーマーケットみたいだった。



「きゅ、きゅ、きゅ」


鳴きながらミドリがあちこち走る。

そこここに金の檻が置かれていて、それをたくさんの異形たちが覗いて歩いていた。


「きゅ」


警察官がキーキーと調子外れのバイオリンのような声をあげる。


「まいごをしらないかっていってるよ」


絢香とミドリは手を繋いで警察官の後ろを歩いていった。時折、警官がいくつかの檻を指差したが、どれも中身は雷三ではなかった。


「Hey!」


声をかけられて見ると、白い肌にそばかすの少年が、二人に手を伸ばしていた。早口の英語でなにかをまくしたてている。


「ミドリ、あの子、なんて言ってるかわかる?」


「よくわかんない!」


無邪気な笑みでミドリは答える。


「でも、英語はわかるのね?」


「えーご?」


「いんぐりっしゅ」


「うん!I Know!」


「なんて言ってるか聞いてみて」


ミドリは流暢な英語で少年としばらく話した。異形の警察官はにこにこと見ていた。


「あやかー」


「なに、ミドリ。あの子、なんて言ってた?」


「よくわかんない!」


「わかるところだけでいいから教えて!」


「んー。Where here? Its dream?」


「そ、それだけ?」


「うん」


絢香はがっくりと肩を落とした。


「……じゃあ、お腹すいてないか聞いて……。いいや、私が聞くわ」


少年の答えは「YES」だった。絢香は異形からエサをもらい、少年に手渡した。


少年の檻から離れ、絢香とミドリは他の檻を見て回る。


「ねえ、なんでこの人は私たちをここに連れてきたのかな?」


絢香が警察官を指差すと、ミドリは「キー」と喚いた。警官が負けないくらいの音量で喚き返す。


「まいごがいっぱいだからだって」


「みんな迷子なの?でも、じゃあ、見て回ってるあの人たちは?」


絢香は歩き回る異形を指差す。


「かちく」


「家畜?」


「かちくをさがしてるんだって」


絢香はミドリの言葉に茫然とした。迷子が全員、村に行けるわけではないのだということに。逃げ出した人間を飼い主に戻す場があるということに。ミドリが人間を家畜と言ったことに。


ミドリは無邪気ににこにこと絢香を見上げていた。

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