金の糸 54
異形の警察官はファイルらしきものをめくり、いくつかの書類をピックアップした。そしてミドリに手を伸ばした。ミドリは警官の腕に飛び込み抱かれた。警官は絢香にも手を伸ばす。
「いくよ、あやか」
「どこへ?」
「まいごをさがしにいくって!」
絢香は思いきって異形の手の中に飛び込んだ。
異形の警官は大柄で、絢香とミドリは楽々と警察官の懐に入り込んだ。
そこには様々なものが入っていた。
貨幣、人間のエサ、何かの紙切れ、鞘に収めた短刀、それから、金の糸。
絢香はできるだけ金の糸から距離をとった。
「あやか、ついたよ!」
ミドリが警察官の手を引き下ろしてもらう。絢香も恐々と異形の手に滑り込む。ふわりと体が浮き、異形の手は床についた。絢香はそっと手から離れた。
広々した場所に、粗末なテントが何張も立てられている。まるで巨大なフリーマーケットみたいだった。
「きゅ、きゅ、きゅ」
鳴きながらミドリがあちこち走る。
そこここに金の檻が置かれていて、それをたくさんの異形たちが覗いて歩いていた。
「きゅ」
警察官がキーキーと調子外れのバイオリンのような声をあげる。
「まいごをしらないかっていってるよ」
絢香とミドリは手を繋いで警察官の後ろを歩いていった。時折、警官がいくつかの檻を指差したが、どれも中身は雷三ではなかった。
「Hey!」
声をかけられて見ると、白い肌にそばかすの少年が、二人に手を伸ばしていた。早口の英語でなにかをまくしたてている。
「ミドリ、あの子、なんて言ってるかわかる?」
「よくわかんない!」
無邪気な笑みでミドリは答える。
「でも、英語はわかるのね?」
「えーご?」
「いんぐりっしゅ」
「うん!I Know!」
「なんて言ってるか聞いてみて」
ミドリは流暢な英語で少年としばらく話した。異形の警察官はにこにこと見ていた。
「あやかー」
「なに、ミドリ。あの子、なんて言ってた?」
「よくわかんない!」
「わかるところだけでいいから教えて!」
「んー。Where here? Its dream?」
「そ、それだけ?」
「うん」
絢香はがっくりと肩を落とした。
「……じゃあ、お腹すいてないか聞いて……。いいや、私が聞くわ」
少年の答えは「YES」だった。絢香は異形からエサをもらい、少年に手渡した。
少年の檻から離れ、絢香とミドリは他の檻を見て回る。
「ねえ、なんでこの人は私たちをここに連れてきたのかな?」
絢香が警察官を指差すと、ミドリは「キー」と喚いた。警官が負けないくらいの音量で喚き返す。
「まいごがいっぱいだからだって」
「みんな迷子なの?でも、じゃあ、見て回ってるあの人たちは?」
絢香は歩き回る異形を指差す。
「かちく」
「家畜?」
「かちくをさがしてるんだって」
絢香はミドリの言葉に茫然とした。迷子が全員、村に行けるわけではないのだということに。逃げ出した人間を飼い主に戻す場があるということに。ミドリが人間を家畜と言ったことに。
ミドリは無邪気ににこにこと絢香を見上げていた。




