金の糸 53
「お願い、ミドリ!この人に雷三のことを聞いて!」
「らいぞー?」
「私と一緒だった男の子!おぼえてるでしょ?」
ミドリはふるふると首を横にふる。
「お願い!聞いて!人間の男の子が迷子なの!」
ミドリは絢香の剣幕に怯えたようだったが、それでも異形に話しかけた。
「キャー?きゅ」
異形は一瞬、目を見開き、絢香とミドリに手振りで来いと示して、小屋の奥へ進んだ。
ミドリはなんの抵抗もなくついていく。絢香は一拍遅れ、深呼吸して足を踏み出した。
小屋の奥の部屋にはいくつかの金の檻があった。どれにも人間が入っていて、みんな一斉に絢香とミドリを見据えた。
四方から声が降ってきた。
英語、中国語、フランス語、その他の聞きなじみない言葉たち。あまりのかしましさに、絢香は耳をふさいだ。
「まいごだって」
ミドリが絢香の裾を引く。
「この人たち、まいごだって」
絢香はぐるりと部屋中の檻を見渡す。
「ミドリ、雷三はここにはいない」
ミドリは眉ねを寄せ首をかしげた。
「まー。こまったわねえ」
こまっしゃくれたミドリの物言いに、絢香はくすりと笑う。
「それ、ママのまね?」
「そう!」
ミドリは楽しそうに笑って警察官に向かい「きゅ」と鳴いた。
警察官は二人の背をそっと押すと部屋を出た。




