金の糸 50
「もうやめよう、雷三。ここで一緒に暮らそう」
いくら絢香が言っても、雷三は街へ出ていった。
「絢香、雷三のことは忘れて、僕といっしょにならないか」
道端で雷三の帰りを待っていた絢香の耳元で譲治が囁いた。絢香は驚いて振り向く。
「いっしょになる?」
「そう。結婚して欲しいってこと」
絢香は目を丸くする。
「だけど、私達会ったばかりで……」
「時間は関係ないさ。とくにここではね」
譲治は広場で転げ回って遊んでいる子供たちを指差した。
「この子達はみんな、この村で産まれたんだ」
「え……。じゃあ、みんな地球を知らないの?」
譲治は一瞬目を伏せる。けれどすぐに笑顔を見せた。
「そう。彼らはこの星しか知らない。でも、彼らはいきいきとしている。違うかい?」
絢香は子供たちを見つめる。黒い皮膚のマリ―。黄色い皮膚のミドリ。白い皮膚のジョニー。赤毛のスイニー、そばかすのトンミ、それからそれから。
どの子も可愛くて、どの子も賢くて。そして彼らは間違いなく「生きて」いた。
絢香は譲治の申し出に返事を返せないまま二週間を過ごした。けれどいくら待っても雷三は帰ってこない。金の檻が届けられるたび絢香は首を伸ばして雷三を探した。けれど、どの檻にも雷三はいなかった。
一カ月が過ぎた。
「絢香、そろそろ返事をくれないか」
譲治の言葉に絢香は首を振った。
「私は雷三がいないところで幸せにはなれないんです。私が死なせた人の命を、私が育てた命を、私を守ってくれた命を、見捨てることはできない」
「絢香、雷三を見捨てるわけじゃない、彼は絶対にここに戻って……」
「そうじゃないの。そうじゃないのよ。生きているって、そういうことじゃないの。私は雷三と前に進みたいの。あなたはどう?譲治さん。あなたはどこへ行きたいの?」
譲治は言葉を飲み、地面を見つめた。異形の地の地面はただ白くて、どこまでも冷たかった。
「さよなら」
絢香は振り返らずに街の中心へ向けて歩き出した。




