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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 49

それから三日たっても雷三は戻ってこなかった。

絢香は毎日、ほとんどの時間を街の往来に立って雷三を待ち続けた。

道を行く異形たちは絢香に気付かないか、気付いても興味なさげに通り過ぎるだけで誰も絢香を捕まえようとはしなかった。


「この街では条例で人間を捕まえてはいけないと決まっているんだ」


いつの間にか絢香のそばに来ていた譲治が口を開いた。


「条例?」


「人間は保護されて自由を認められている」


饒舌に語りだそうとする譲治を、絢香は押しとどめた。


「ちょっと待って!条例って、どうして知っているの?異形の言葉が分かるの?」


「異形?タテガミを持つものたちの事かい?まいったな、君たちはそんな言葉で彼らをくくって……」


「そんなことより!ねえ、もしかしてあなたたちは異形の……、タテガミを持つものたちの言葉が分かるの!?」


譲治はにこやかにうなずいた。


「じゃあ、聞いて!異形たちに聞いて!雷三がどこにいるのか!」


「大丈夫だよ。この街にいる限り人間は必ずここへ連れて来られるんだから」


「だけど、もう三日も……!」


「ほら、来たよ」


譲治が指さす方には乗り物に乗せられた数多くの金の檻があった。その中の一つに雷三が閉じ込められていた。


「雷三!」


絢香の耳元で譲治が囁く。


「大丈夫だよ、彼は警察に保護されただけだ」


「警察?」


綾香は乗り物を見た。そこに乗っている異形は鮮やかなブルーの布をまとい、タテガミを短く切りそろえていた。


「彼らは街で迷子になった人間を保護してくれる。街から不当に連れだされそうになっている人間も同じように保護してくれる。彼らのおかげで僕達はこの街で平和に暮らせるんだ」


乗り物は人間達の村に近づくと静かに止まった。


「雷三!」


絢香は乗り物に駆け寄り、雷三の檻に手を伸ばした。異形の警官は雷三の檻に手をかけると、絢香のそばに下ろしてくれた。


「雷三、大丈夫!?」


雷三はむっつりと口を閉ざし、下を向いて絢香の顔を見ようとはしなかった。


「雷三?」


「絢香は……」


異形の警官達はつぎつぎに檻を乗り物から下ろすと地面に並べ、端から檻を開いていった。

檻から解放された人間達はほとんどがぽかんと口を開けていたが、村の人々が口々に歓迎すると、次第に笑顔になっていった。

ただ一人、雷三だけが、檻から出られたというのにむっつりと地面を見つめていた。


「雷三、三日もなにをしていたの?どこもいたくない?お腹すいてない?」


雷三は絢香の目を見た。その瞳の中に熱い炎が燃えているようで、絢香は目をそらせなかった。


「絢香、おなかすいたって、何?」


「それは……、エサがないというか……」


「おなかすいたっていうのは生きてるってことだ。絢香がそう言った。けど、絢香。俺達はほんとうに生きている?」


雷三は檻から出ていった人々を指差した。人々は村の人達からエサを分け与えられ、凍えていたものはテントに向かい、乾いていたものは水を与えられた。

異形の警官達は空の檻を乗り物に積み込むと、街の中心部へ返っていった。檻から放たれたと言うのに、誰一人としてこの場から逃げ出そうとする者はいなかった。


「だって、雷三。ここにいたらご飯が食べられるし、人間がいるし……」


「それじゃ、檻の中と同じだ」


絢香は雷三の顔を見つめる。


「雷三は、それじゃダメなの?もっとなにか必要なの?」


「俺は、地球に帰る」


雷三は力強く言うと、街の中心へ向かって歩き出した。


「待って、雷三!」


追いかけようとした絢香の肩を、譲治がやんわりと止めた。


「大丈夫。彼は何度だって帰ってくるよ」


その言葉のとおり、雷三は二日後には金の檻に入れられ戻ってきた。それでも雷三は歩き出し、数日しては連れ戻されることを何度も何度も繰り返した。

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