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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 48

テントから出ると、冷たい空気が耳を引きちぎるようだった。


「テントの中は暖かかっただろう? タテガミを持つものたちが暖房器具を援助してくれてね。僕たちは皆凍えずに夜を過ごせるんだ」


建物の裏、異形が入り込まないような隙間に、テントが三張と倉庫のようなものが二棟建っていた。

人間達はにこやかに絢香と雷三に挨拶をおくる。


「はろー」


絢香はにこやかに返事を返すが、雷三はむっと口をつぐんだまま周囲の人たちを睨んでいる。


「雷三、はろーっていうんだよ。英語だよ」


絢香が笑顔で言っても、雷三は絢香の方へ顔も向けなかった。


建物と街の外壁の間が広い部分に人々は輪になって座った。子供たちが輪の中心。その次が老人、外側は大人で皆を守るように立っていた。


わあっと歓声が上がった。皆が街の方に顔を向ける。絢香と雷三もそちらを見る。


異形が、布袋を手にこちらへ向かってきた。絢香は反射的に立ち上がり、逃げようとする。雷三はそんな絢香を背にかばう。


譲治は二人の様子を見て、優しく微笑み、絢香の肩にそっと手を置いた。


「大丈夫。彼女は僕らを捕まえに来たんじゃないんだ」


絢香の肩を握る譲治の力は強く、絢香は逃げ出すことができない。雷三は譲治を睨みつけ、それでもその場に留まった。


異形は袋の中からいろいろな色と大きさのエサを取り出し、子供たちに手渡していく。子供達はわあわあと賑やかにエサを受け取っては口に頬張る。異形はつづいて老人たちにベージュのエサを。それから大人達に見慣れたエサを与え始めた。


「さあ、僕らも食事にしよう」


譲治は異形の手からエサを受け取ると、絢香に渡した。続けて受け取ったエサを雷三に差し出したが、雷三はその手を払いのけた。


「エサはいらない」


譲治は肩をすくめて雷三に向き直った。


「これはエサじゃない。栄養バランスの良い、効率の良い食事だよ。タテガミを持つものから受け取るのが気に入らないんだね。けれど彼らは僕たちの味方で……」


「エサはいらない」


雷三は言い捨てると異形の脇をすり抜けて街の方へと歩いていく。


「雷三、待ってよ!」


走り出そうとした絢香の肩を譲治が止めた。


「大丈夫だよ。彼もすぐにわかるさ。ここが目指していた自由の地だってことがね」


譲治は絢香の手を握った。絢香は去っていく雷三の背中を、ただ見つめた。

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