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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 44

目覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。


「起きた?絢香」


「ん。おはよう、雷三」


絢香は雷三に抱きつく。


「良かった。もう会えないかと思った」


雷三もしっかりと絢香の背を抱き締める。


「ありがとう、絢香。助けてくれて」


「うん」


絢香は体を離すと立ち上がった。


「行こう、雷三」


絢香に手を引かれ雷三も立ち上がる。



道路に顔だけを出し左右を見渡す。人通りはまだちらちらとあったが、皆、下を向いて歩いてはいない。足元になど気を配りそうもない。

二人は建物の陰から陰へ伝い走った。

道のあちらこちらに、馬が閉じ込められた乗り物が停まっている。


「ねえ、また乗り物に乗ってみる?」


「勝手に走らせたら、馬は群れに帰っただろ?異形のいるところには行けない」


「そうか。宇宙港は大きな町にあったわ」


「それはここではないの?」


「違うの。もっとずっと大きな街。異形はみんな輝く布をまとっていたの」


二人は街の外へ急ぐ。

すっかり暗くなった砂漠へ向かい走る。


「道が見えるギリギリ遠くを行きましょう。道を歩いたら見つかるかもしれない」


絢香が先導して町から離れていく。礫砂漠は石がごろごろして歩きにくいが、雷三が足に巻いてくれた布のおかげで痛くはなかった。

絢香は雷三の手をぎゅっと握った。



しばらく歩くと砂漠に植物が見えだした。真ん丸で人間の腰くらいの高さの灰色のもの。

最初、絢香は石だと思い手をついた。しかしそれは柔らかく温かみがあった。

雷三はそれを蹴ったり叩いたり噛みついたりしたが、植物はびくともしなかった。


「食べられるかと思ったんだけどな……」


「お腹すいたわね」


「おなかすいた、って、なに?」


絢香はびっくりして目を見開いた。

雷三は『おなかがすいた』という日本語を知らない。

金の檻の中で雷三と出会って、言葉を教えている最中に、絢香は一度も『おなかがすいた』と口にすることがなかったのだ。

檻の中はいつも暖かく、清潔で、食べ物も飲み物も豊富にあった。今とは真逆の環境だった。

それでも絢香は檻の中に戻りたいとは思わなかった。


「お腹すいたって言うのはね、生きてるっていうこと」


絢香は自分自身、その言葉をしっかりと胸に刻んだ。

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