金の糸 42
「雷三!」
金の檻が置かれた台によじ登る。雷三は檻の中、未だ金の糸に巻かれたまま、ぐったりと横たわっていた。一昼夜動けず、ひどく体力を消耗している。
「……絢香」
「雷三、待ってね。すぐ出してあげる」
絢香は檻に手をかけぐいぐいと引っ張る。檻はびくともしない。異形の手でないと動かないように作られているのかもしれない。
絢香は部屋の中を見渡した。
部屋のすみに異形の子供が捕まって金の糸で巻かれ、泣いている。
絢香は子供のそばに走り、金の糸を欠けた刃物でねじり切った。
子供はぽかんと絢香を見つめた。
「お願い!あの檻を開けて!」
絢香は子供の手を引き檻の元へ連れていく。子供はしばらく檻と絢香の顔を見比べていた。絢香が檻を開けるジェスチャーをしてみせると、子供は檻に手をかけ、雷三を抱えて外に出してくれた。
「雷三!」
絢香は飛び付き、雷三の体の金の糸をほどいた。
「……絢香、大丈夫か……」
「大丈夫、私は大丈夫よ。雷三、待ってね、お水を持ってくる」
絢香は部屋の隅のテーブルの上に置いてある瓶を持ち上げようとした。しかし絢香の背丈と変わらないほど大きな瓶はわずかに引きずることが出来ただけだった。
様子を見ていた異形の子供が、瓶を両手で抱え、雷三の元へ運んだ。
子供は、瓶の中身を手のひらにすくい、雷三の口に流し込む。
液体を飲み干し、雷三は激しくむせた。
「雷三!大丈夫!?」
「これ、水じゃない……」
咳の合間に雷三が呟く。絢香は異形の子供の手に残った滴を舐めとる。
「お酒だわ!」
咳が止まった雷三は、よろけながらも立ち上がった。
「なんだか体が温かいよ。元気になった」
絢香は雷三に抱きついた。
「雷三、良かった!」
「絢香、どうやって逃げてきたの?」
「それは後。早くここから逃げましょう!」
絢香は雷三の手を取り駆け出す。ふと足を止め子供を振り返る。
「あなたも逃げましょう」
手招くと子供は走りだし、階段の上に駆け上がった。二人も続いて駆け上がる。
外へ出ると、キョロキョロしていた子供は、道の奥へ駆け出した。
そちらを見た二人はぎょっとして足を止めた。
三人の大人の異形がいた。
道に寝ているおじいさんを、二人の若い異形が起こそうとしている。
若い異形たちは揃いの水色の布をまとい、たてがみを短く切り揃えていた。
子供がその若者たちに駆け寄り泣きついた。泣きながら今逃げ出してきたビルを指差す。
絢香と雷三は階段の陰に隠れた。
すぐに足音が聞こえ、若者たちがビルの階段に姿を表した。異形は絢香と雷三を見つけたが、ちょっと驚いた顔をしただけで、地下へ下りていった。子供が後をついていく。
「知り合いなのかな」
雷三の言葉に絢香は首を捻った。
「警察なのかも。とにかく行きましょう。あの子も助かったみたいだし」
二人は明るくなった町に駆け出した。




