金の糸 38
老人が部屋に姿を表さないまま一昼夜が過ぎた。絢香は一睡もできぬまま考え続けた。どうやって逃げ出すか、どうやって雷三を助け出すか。
扉が開いた。
絢香はびくりと震える。入ってきたのは一人の幼女だった。隠れるようにさっと扉を閉め部屋の中を見渡した。誰もいないと確認すると一目散に絢香の檻に駆け寄った。
丸い目で絢香を見つめると、にっこり笑い檻を開け絢香に手を伸ばした。
躊躇はしなかった。絢香はその手に思いきり噛みつく。幼女は叫び声をあげ手を引っ込めた。その隙に檻から飛び出て、台の縁から下をのぞく。絢香は自分の身長より高い位置にいた。台の端に腰掛け、目をつぶって飛び降りた。床をごろごろと転がる。
毛足の長い絨毯に助けられ、怪我はない。
幼女は噛まれた手を押さえ泣いている。
絢香は立ち上がると扉に向かって走った。扉は手を触れると自動で開いた。
廊下を明るい方へ向かって走る。磨きあげられた廊下は石でできており、絢香の足音がぱたぱたと響いた。
廊下の照明が昼ほどに明るい辺りへやってくると、前方から異形の足音が聞こえた。
左右を見渡しても身を隠せるものはない。
絢香は引き返して薄暗いところにある扉を開け、飛び込んだ。




