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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 36

雷三が叫ぶ。


「絢香!」


絢香はすくんで身を縮める。

男は絢香に巻き付いていた金の糸を取りさると、さっさと手を引き、檻を取り上げ、部屋を出た。


「雷三!」


「絢香!」


雷三の叫び声が扉に阻まれて消えた。


男は地上に出ると表通りに向かった。いくつかの角を曲がり、豪華な邸宅が立ち並ぶ区域に入った。

絢香は檻から外をしっかりと見渡した。道順を余さず覚えているために。


辺りには異形が歩いておらず、たまに宙を走る乗り物が通りすぎて行った。


男は一軒の豪奢な建物の前で立ち止まった。金色の門に手をかけ、がしゃがしゃと揺する。

建物の中から地味な色合いの布をまとった女が出てきた。男は不快な声で短くなにかを話しかけた。

女は門を開け、男を中へ導いた。


建物の中は外よりもはるかに豪華だった。絢香が今まで見たどの家よりも。壁も天井も光輝くほどに白く、金の意匠が上品に施されている。

扉は真珠色で、光をうけて七色に輝いた。


女が先導して屋敷の奥へ向かう。廊下を進むごとに灯りは少しずつ減り、最奥にたどり着く頃には、やっと自分の足元が見えるばかりだった。


女は扉の脇にある機械に触れ、部屋の中に来客を告げたようだった。男を残して女は去った。音もなく扉が開き、男は部屋の中に入った。


部屋の中はますます暗かった。

ただ、壁際にならんだガラスケースの中だけは明るく照らされていた。まるでコレクションを陳列しているように見えた。


けれど、ケースの中にずらりとならんだものは人間で、どれも皆、眠っているように見えた。


部屋の奥、ゆったりとしたカウチに座った年老いた男の異形が、絢香の檻に目を向けた。


ぞくり、とした。


その目は絢香の体を見透かした。

皮膚を、肉を、筋を、骨を見透かした。

どこまでも冷徹に観察され、絢香は自分の身をかき抱き、うずくまり震えた。


その老人が一言呟いた。

檻を持っていた異形は、近くにあった台に絢香の檻を置き、にやけた笑いを浮かべた。

老人は男を睨み、男は気まずそうに部屋から出ていった。

絢香は怯え、老人の目を見ることができなかった。

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