金の糸 33
馬の群れは暗くなっても走り続けた。絢香と雷三は馬の長い毛にくるまって暖かく快適に移動していた。
「どこにいくのかしらね」
「夜中まで移動するのはエサを探すときだよ」
「地球の馬と同じだと思う?」
「うん。こいつらの動き、地球の馬にそっくりだ」
絢香にはわからなかったが、雷三は確信を持っているようだった。
馬の群れは幅広い川に入っていく。地上では宙に浮いている馬たちだが、水の上には浮かないようで、ざぶざぶと水のなかを泳いだ。
馬の背のすぐそこまで水が迫っている。
雷三は馬のたてがみを握り、水に落ちないように慎重に川面に手を浸した。しばらく水の中で手を洗い、その手で水をすくった。
「絢香、水を飲んでおこう」
雷三がすくった水をそのまま絢香の口元に運ぶ。絢香は母鳥からエサをもらうヒナのように雷三の手から水を飲んだ。
雷三が水を飲むのを見ていた絢香は溜め息をついた。
「私、駄目ね。雷三よりお姉さんなのに、雷三に頼りっぱなし」
雷三は絢香の手をとり、ぎゅっと握った。
「檻の中では俺は絢香に頼りっぱなしだった。絢香は俺のこと大事にしてくれただろ。だから今度は俺の番だ」
絢香は口をぎゅっと結ぶと雷三の手を握り返した。
馬たちの行く手に巨大な岩山が見えた。と思う間もなく岩山はみるみる近づいてくる。馬たちが岩山の麓にたどりついた頃には辺りは明るくなり始めていた。
「大きな山ねえ」
絢香が感心して見上げている間に雷三はするすると馬のたてがみを伝って地面に降りた。馬たちが食べているものを観察して、それを拾うと絢香の元へ帰ってきた。
「こいつら、石を食べているよ」
石は触るとほんのり暖かく、手にしっとり馴染んだ。馬たちはがりんがりんと音をたてて石を咀嚼していく。二人は気温が暖かくなっていくなか、のんびりと馬たちの食事を眺めた。
馬たちは食事が終わっても、その場所を離れようとはしなかった。絢香と雷三は馬から降りて岩山に登った。岩山はお椀を伏せたような形で、坂道はなだらかだった。
頂上から見渡すと、遠くに町らしきものが見えた。高い建物が何棟も立ち並んでいる。
「大きな町みたいね」
「宇宙に繋がってるかな」
「わからないけど、行ってみましょう」
雷三は山を下ると、乗って来た馬の鼻面を撫でて別れの挨拶をした。
「馬に乗って行かないの?」
「町に近づいたら、きっと捕まってしまう」
絢香は乗り物の下でぼろぼろになっていた馬の姿を思い出した。
「歩こう」
二人は暖かくなった地面を踏みしめて歩きだした。




