金の糸 32
雷三が馬と呼んだ生き物は体毛が長く、体は宙に浮いていたが、体毛は地面に付きそうなほどだった。
雷三はその毛を握り、ぐいぐいと登っていく。馬は嫌がりもせず雷三の好きなようにさせている。
馬の背に乗った雷三はおおはしゃぎで絢香に手を振った。
「絢香もおいでよ!すごく気持ちいいよ!」
「むりだわ、私、登れない」
「こいつの毛を体に巻き付けなよ。俺が引っ張りあげるよ」
絢香は雷三に言われたとおりに馬の体毛をしっかりと体に巻き付けた。
「引っ張るよー」
雷三がぐいぐいと引いていく。絢香はふわりと宙に浮いたが、雷三は顔を真っ赤にして必死に踏ん張っている。絢香は少しでも負担をかけないようにと、じっと動かずにいた。
頂上付近に来ると、絢香も馬の毛を握って登り始めた。最後の傾斜を登り終えると雷三は倒れこみ、肩で息をした。絢香は雷三の背を撫でた。
「ごめんね、雷三。私、迷惑かけてばかりだね」
息を整えた雷三がまだ赤い顔で答える。
「俺、早く大人になるよ。絢香にごめんなんて言わせないくらい強くなる」
絢香はなんと返事したら良いか迷い、結局、無言でうなずいた。
船の汽笛のような音がした。音の出所を追って顔を向けると、一頭の馬がいなないたところだった。その声を合図に馬の群れは移動を始めた。
乗り物に閉じ込められ傷ついた馬は息絶えていた。
雷三は目を瞑り頭を下げた。絢香も同じようにする。馬たちはいななきながら広い礫地を進んでいく。
絢香と雷三は馬の背につかまりどこへとも知れず移動を始めた。




