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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 31

乗り物は宙を滑っていく。

市場の方から甲高い叫びが聞こえた。この乗り物の持ち主かも知れない。けれど確かめる間もなく乗り物はすごいスピードで走り続けた。


座席に座らず床に直接触れていると、生き物の息づかいが伝わってくる。そのわずかな振動は絢香を車酔いにさせた。


「絢香、顔色が悪い。大丈夫?」


「ううう、気持ち悪い」


「上のイスに登って寝ていなよ。これは俺が踏んでおくから」


絢香はペダルを雷三にまかせ、座席に登った。イスの上は驚くほど静かで暖かかった。


乗り物は道を反れて荒れた礫地を走っていく。


「絢香、この先、なにか見える?」


足元のペダルのそばにいる雷三からは外の景色は見えていない。絢香は吐き気をこらえながら窓から外を見た。


「なんにも。どこまでも地面があるだけ」


「こいつ、どこへ行くつもりなんだろ」


「もしかしたら、異形の家に帰るのかしら。道を覚えているのかも」


「そうだとしたら、ダメだな。どこかでこいつを捨てて歩かないと」


「雷三!何か見える!」


窓の外、遠くに動くものが見える。


「生き物だわ」


「異形か?」


「わからない」


雷三は乗り物を止めようとペダルから足を離した。けれど乗り物は走り続ける。


「こいつ、止まらない!」


ペダルを踏んだり離したりを繰り返しても、乗り物は変わらぬ速度で動き続けた。


「止まれ!止まれってば!」


雷三が床を踏み鳴らしても乗り物は止まらない。


「絢香、飛び降りよう!」


「待って、異形じゃない。図鑑で見た動物よ。宙を走る馬みたいなやつ。この乗り物の下にいるやつだわ」


雷三は座席に飛び上がると窓の外を眺めた。動物の群れがこちらを見ている。


「本当だ。こいつ、故郷に帰ってるのかな?」


「そうかもしれない。もう少し待ってみましょう」


乗り物は群れに近づくとスピードを落とした。完全に止まった乗り物から二人は降りた。

群れの中から何頭かが出てきて、乗り物の下に鼻面を突っ込んだ。

絢香と雷蔵は動物たちの行動を観察した。


馬に似ているが足はなく、宙にふわりと浮いている。首は長く優しい目をしていた。地球の馬の三倍ほどは大きいだろう。


その動物たちは次々と乗り物に近づき、機体を揺すり持ち上げようとしているように見えた。一頭が乗り物の下にもぐりこみ、体を反転させた。乗り物はころりと転がり、機体の下から動物が出てきた。

やせ細り、体毛はあちらこちら擦り切れている。傷ついた一頭を何頭かが舐めてやっている。


「ひどい……」


「異形はこいつらにエサをやらないんだろうな。死ぬまで働かせるだけなんだ!」


雷三は怒りを目に湛え乗り物の機体を睨む。


「でも、死んでしまったら乗り物がなくなるのに……」


「そうしたらまた新しい馬を用意するんだ。そういうことをする人間を知ってるよ。馬を好きじゃないんだ。道具と思ってるんだよ」


「雷三は馬が好きなの?」


「馬は家族だよ」


雷三は動物のそばに寄っていく。動物たちは雷三のにおいを嗅ぐ。雷三は手を伸ばし、動物に触れた。


「絢香、この馬に乗ってみよう」


雷三は満面の笑みで絢香を振り返った。


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