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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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金の糸 27

穴の外は異形の動く足音やキーキーガラガラと言う話し声で活気づいていた。二人は足音を忍ばせて小屋の裏にまわり身を潜めた。小屋の裏の壁と町を囲む塀の間は、異形が入れるほどの隙間はなかったが、人間が歩く分には問題なかった。

雷三が声を低めて言う。


「このまま建物づたいに行こう」


絢香は雷三の手を引き耳元で囁く。


「夜まで待った方がいいんじゃない?」


「夜は寒すぎただろ?あんなんじゃ、とても歩けないよ」


雷三は歩き出す。絢香も遅れないようについて行った。

小屋の裏には雑多なものが落ちていた。何かの金属や石ころ、それに布の切れ端。

雷三はその布を拾い上げると細長く二つに裂いた。


「絢香、足を出して」


絢香の爪先から足首まで包帯を巻くように器用にくるむ。絢香の両足は温かい布で包まれ分厚い靴下をはいたようだった。


「雷三、この布、もう半分にして。雷三の足も包んで」


雷三は首を横に振る。


「そんなに幅はないよ。それにまたどこかで拾えるさ」


絢香が口を開くより先に、雷三は歩き出した。

小屋の裏から裏へ渡り歩いているうちに、この町はやはり貧しいのだと思われた。宙を走る乗り物はなく、荷物を運ぶのは車輪がついた手押し車だ。町の異形が身に付けている布も、絢香が今まで見てきた異形たちのものと比べて粗末だった。そんな貧しい暮らしでも、人間を飼って捨てる余裕があるのだ。人間がいかに安価に売買されているかがわかる。絢香は悔しさに唇を噛んだ。


町の一番端の小屋から塀の切れ目までは素通しで身を隠せるものがない。昼近くになって異形の姿はだいぶ減ったが、それでも完全に目がないとは言い切れない。

雷三は小屋の横に停めてある手押し車に這い上がり、かけてある布の下に潜り込んだ。


「絢香、こっちに来て」


雷三に呼ばれて絢香も這い上る。布の下には植物の実が積まれていた。


「これ、食べられるよ!」


雷三が差し出した実は人間の頭ほども大きかった。恐々と舐めてみたが、とくに味はしない。雷三はその実を抱きかかえかじりついている。絢香も真似してかじりつく。


「にっがい……」


「けど体に良さそうな味だ」


言われてみれば、漢方薬のような胃薬のような味だった。毒ではないと思えた。それにこの味は異形が人間に与えるエサの苦味に似ていた。


「ねえ雷三、これ、おばさんに届けてあげない?」


「なんで?」


雷三はきょとんとする。


「なんでって……だって可哀想じゃない」


雷三は口の端についた実の汁を腕で拭う。


「あの人は、自分であの生き方を選んだんだ。好きにさせる方がいい」


「でも外に出たら、自由だし……」


「自由ってなに?」


「自由って……」


雷三の問いに絢香は答えられなかった。

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