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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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パトリシアの憂鬱

パトリシアの憂鬱


幸せな午睡から覚め、秋の爽やかな風に金木犀の香りをみとめ、パトリシアはうっとりと目を細めた。

パトリシアは自然を愛する。

太陽を、大地を、草花を、風や雨も。

パトリシア自身も、いつも自然でありたいと思っている。

朝日に起こされ、日の入りに休み、わずかな食事と気楽な散歩。

パトリシアが求めるのはたったそれだけ。

それだけなのに……。



「さ〜あ、パトリシアちゃ〜ん、お散歩にいきまちゅよ〜」


パトリシアは飼い主のために尻尾をふってやる。人間と良いコミュニケーションをとろうと思うパトリシアにしてみれば、多少のお愛想は苦ではない。


「今日はピンクのドレスをきまちょうね〜」


パトリシアはうんざりとため息をつく。自慢の毛並みを貧相な布で覆われることは、パトリシアのよしとするところではない。


「おリボンもつけまちょうね〜」


パトリシアは再びため息をつく。

耳のそばでリボンがかさかさと音をたて続けるのは、けっこうなストレスだ。


パトリシアの夢は、人間になること。

その夢は、服を着るためなんかではない。

人の言葉を話し、動物に服を着せないように説得したいからなのだ。


パトリシアは自然を愛する。

人間に変身する妄想を弄びはするが、本気でそんな不自然なことを望みはしない。ただ、


「さあ、パトリシアちゃん、でかけまちゅよ〜」


この不自然な飼い主にひとつだけ伝えたい言葉がある。


『あなたの化粧、分厚すぎるわ』


不自然な皮膚の上、不自然な粉類が堆積している。その臭いにパトリシアは三度ため息をついた。

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