金の糸 16
それからも事あるごとに異形の子供は実験らしきことを繰り返した。
エサを何日もくれなかったり、その後、ほんの少しだけ与えたらどうなるか見てみたり。
絢香を一人だけ檻から出してみたり、檻の中に仕切りを作って二人を別々にしてみたり。
絢香はそのたびに泣き、雷三はそのたびに異形の子供をにらんだ。
一週間ぶりに仕切りが取り払われると、絢香は雷三に駆け寄り抱きついた。それを見て異形の子供は興味無さそうに部屋を出た。
「絢香、ここから逃げよう」
絢香は目を丸くして、その後すぐに青くなりガタガタと震えた。
「だめ、だめよ雷三。殺されてしまうわ!」
「ここにいた方が危ない。あいつ、いつかは俺たちを殺してみたくなるに違いない」
絢香はぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことない!私たちはつがいだもの!殺すわけない!」
雷三はぽかんと口を開けた。
「つがい?」
「私が子供を産むまで私たちは殺されたりしないはずよ」
雷三の顔は見る間に真っ赤になっていった。
「絢香……つがいって、子供を作る男と女の事?」
「そうよ」
「俺が、絢香のたった一人の人になるの?」
絢香は雷三が言っている意味にやっと気づいて顔を赤らめた。
「い、異形が勝手に決めたことよ。雷三はここから出て素敵な女の子と……」
「いやだ」
「雷三?」
「俺は絢香じゃないといやだ」
絢香はますます赤くなる。
「ら、雷三は他に女の子を知らないから……」
雷三は絢香のそばに歩みよった。
「知ってる。故郷にはたくさんの女がいた。けどどんな女も絢香みたいに綺麗じゃなかった。優しくなかった」
絢香は困って眉根を寄せた。雷三は絢香の肩を抱くとキスをした。絢香は力任せに雷三を押しやった。
「ちょっと待って、雷三!」
「絢香は俺じゃいや?死んだ雷三じゃないといやなの?」
絢香はなんと言っていいかわからず俯いた。
そこへ異形の子供が部屋に戻ってきた。絢香と雷三はハッとして抱き合ったまま檻の隅に逃げた。異形の子供はチラリと二人に視線を留めたが、すぐに興味無さそうに顔をそらした。
「おかしいな」
「え?」
雷三の言葉に絢香は首をかしげる。
「いつもこれくらいの時間になったら実験を始めるのに」
「もしかしたら、飽きたのかも」
「だとしたら、俺たち、明日から水もエサももらえなくなるんじゃないか?」
困惑した表情の雷三に絢香は力強く頷いてみせた。
「大丈夫よ。私が何とかするわ」
絢香と雷三は不安な夜を迎え、そして夜が明けた。




